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『デスダイバー』(両角長彦) [読書(ファンタジー・ミステリ・他)]


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「どれほど入念に再現されようと、それらが『絶命』で終了してしまうかぎり、不十分かつ不完全だ。
 本当のデスダイブとは、死の先にある世界をも体感させるものでなければならない。現世における死に続いて、来世における新しいはじまり。このふたつを連続して体感させることができてこそ、真のデスダイブといえるのだ。
(中略)
 来世の存在を実証することの重要性は、どれほど強調してもしすぎることはない。それによって人間というものが『変わる』からだ」
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単行本p.156、164


 使用者の脳に感覚情報を直接入力することで、安全に「死」を体験させるバーチャル・デス=VD。今や娯楽産業の花形にのぼりつめたVD、その最先端の技術開発を行っていた企業の研究所で起きた不可解な事故。現場の状況は、物理的にありえない現象が起きたことを示していた……。通常ミステリ作品では踏み込まない「死後存在」に挑んだ意欲作。単行本(PHP研究所)出版は2013年4月です。


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「実際問題、もう一般大衆にしてみたら死ぬくらいしか楽しみはありゃせんわけですよ。そうは思いません?」
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単行本p.18


 誰もが経験することになるのに、それがどのような主観体験なのか絶対に分からない「死」。だが、バーチャルリアリティ技術の発展は、それを可能にした。それがバーチャル・デス=VDによる「安全な“死”の体験」。

 今や一大娯楽産業になったVDソフトを最初に開発し、その品質(ノイズの少なさ)で他社の追随を許さないFA社の研究所で、謎の爆発事故が発生した。現場にいた全員が絶命するという異常事態。だが真に異常だったのは、事故の規模ではなかった。


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「あの爆発現場は、少なくとも今の段階では、誰の目にもふれさせるわけにはいかないのです――ああ、先生のおっしゃりたいことはわかります。事実を隠蔽しようとしている。たしかにそうです。しかし、少しだけ説明させて下さい。
(中略)
警察はまだしも、こんな現場をマスコミに公開できると思いますか? なんといって説明したらいいんです? それでなくてもFA社は賛否両論の存在だったのに、こんな不可解な現場を見せたら、どんな記事を書かれるか。
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単行本p.37、49


 重力縮退崩壊? 瞬間遠隔転移? そんな言葉をもってしても何の説明にもならないほどの異常な現象。その謎に挑むのは、日本ではまだ数少ない未確認事象捜査官=UAIである藤森捷子だった。


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 日本ではまれなケースだが、欧米ではよく見られることだ。殺人事件の犯人が、犯行現場の証拠隠滅をするため、あたかもそれが超常現象の結果であるかのように偽装するのである。(中略)UAIの仕事は、その現象が偽装かそうでないかを見極めることであり、欧米では専門職として認定されている。(つまり中には、専門家によって本物の超常現象と認定されたものも数多くあるということだ!)
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単行本p.33


 にわかに高まるXファイル感。FA社が隠している事実に迫った藤森は、そのために軟禁状態に置かれるはめに。だが、異常事態は終っていなかった。事故は、始まりに過ぎなかったのだ。


 というわけで、「死後存在」をテーマにした作品としてはアプローチが『know』(野崎まど)に近いのですが、SFではなくオカルトミステリです。ネタも展開も、米国のTVドラマ『Xファイル』を意識している感じ。謎がどこまで合理的(オカルト論理も含めて)に解決されるのか予想がつかず、最後まで読者を引っ張るところも似ています。

 ただ、新たな人物が登場して藤森に状況説明、次の登場人物が現れて背景説明、さらに次の登場人物が出てきて隠された事実を説明、という具合にひたすら藤森が説明を聞いているというシーンが続くうえ、タメらしいタメもないまま最後のアクションシーンまで一本調子に進んでゆくような構成については、正直、あまり感心しません。ページ数が足りなくて説明だけで手一杯になったような観があり、もう少し分量を増やせばもっと面白くなったのではないかという気がします。



タグ:両角長彦
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