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『SFマガジン2016年10月号 海外SFドラマ特集・「スター・トレック」50周年記念特集』 [読書(SF)]

 隔月刊SFマガジン2016年10月号は、海外SFドラマ特集・「スター・トレック」50周年記念特集号でした。また、「ケリー・リンク以降――不思議を描く作家たち」と題するストレンジ・フィクション特集として海外短編4篇が掲載され、さらに草上仁さんの読み切り短編も掲載されました。


『OPEN』(チャールズ・ユウ:著、円城塔:訳)
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二人きりのときに、さも親密なように振る舞うのはなんていうか、つくりごとみたいな感じがした。そういう設定のように思えた。まるで、誰も観客のいない劇場に立つ役者みたいで、僕はただ、与えられたキャラクターを演じようと言っているのに、彼女の方ではもうつきあえないって感じ。向こう側の誰か僕らが、こっちまで僕らについてきていた。僕らは僕らでいるために僕らのための観客が必要だった。「僕ら」でいるために。
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SFマガジン2016年10月号p.192

 さしたる理由もなく突然開いた並行世界への扉。開いたその向こうには、やっぱり僕たちがいた。他者との関係から現実感あるいは当事者意識のようなものが失われてしまう、誰もが感じたことのあるあの感覚を「並行世界の自分たちとの交流」として描く、いかにもチャールズ・ユウらしい作品。ちなみに長編『SF的な宇宙で安全に暮らすっていうこと』読了時の紹介はこちら。

  2014年06月13日の日記
  『SF的な宇宙で安全に暮らすっていうこと』(チャールズ・ユウ:著、円城塔:翻訳)
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2014-06-13


『弓弦をひらいて』(ユーン・ハ・リー:著、小川隆:訳)
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世界が聞く、語られた言葉にはどれも一つずつ、一つだけ真逆があり、それは反対語であることはめったになく、同一言語である必要もない。正逆の言葉の組み合わせは完全無欠な静謐のときをもたらし、それは宇宙を誕生せしめた虚空への回帰となる。われらの聖域の外で一つの言葉が語られると、迷路はその逆を吐き、それは書き留められるまで谺しつづけるのだ。
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SFマガジン2016年10月号p.202

 「世界には秘密の場所がある。われらが迷宮もその一つだ」
 あらゆる言葉には真逆となる言葉が存在し、それらは互いに対消滅する。われらが迷宮にあらわれた女が探し求めたもの。それは、自分自身がその真逆となる言葉。あらゆる言葉から構成される言語空間における不動点だった。みんな大好き「数学ネタ+言語SF、異世界ファンタジー風味」。


『魔法使いの家』(メガン・マキャロン:著、鈴木潤:訳)
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「わかるでしょ。わたしたちは大地の女。どんなに凍えようとも、体に熱い血をめぐらせているのよ」
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SFマガジン2016年10月号p.222

 親からお稽古事にゆけとうるさく言われて、魔法使いの弟子となった少女。ウィッチクラフトの世界に足を踏み入れた若い女性が体験する幻想と官能を活き活きと描いた中篇。


『ワイルド家の人たち』(ジュリア・エリオット:著、小川隆:訳)
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ぴりぴりと痛む首の傷口からベンの唾液がわたしの血流に少しずつ入りこんだ。わたしは待った。毒が心臓に達すると、かすかに焼けるような感じがした。喉の奥に胃酸がこみあげてきた。死んだ動物の味が口のなかに広がった。荒々しい希望と気持ちを萎えさせる絶望が肉を黒く染め、動物の狂気は沈黙した。いまでは毒が体にまわって、わたしを変え、強く悪賢いものにしていった。
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SFマガジン2016年10月号p.239

 お隣に引っ越してきたワイルド家の兄弟たちは、まるで獣の群れのようだった。興味津々の少女は、動物みたいに群れの一員になることを夢想するうち、次第に「思春期」という毒が体にまわってもうヤバいことに。青春小説の傑作。


『宝はこの地図』(草上仁)
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 いつもの時間にジェットヘリが来て、砂漠にビラを撒いて行った。何千枚ものビラだ。本日の宝探し。本日のクイズ。知恵と体力のある者だけが獲得できる、生存権の報酬。
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SFマガジン2016年10月号p.339

 元流刑地の惑星ディーツでは、毎日毎日が過酷な生存競争だった。支配者がまいたビラを頼りにクイズを解き、目的地を見つけ、他人より早く到着して、トラップを解除できれば、食料が手に入るかも知れない。知恵と体力のいずれかが不足している者には、ただ死あるのみ。シェクリイ風の奇妙で残酷な宝探しレース小説。



タグ:SFマガジン
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