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『ロックイン -統合捜査-』(ジョン・スコルジー、内田昌之:翻訳) [読書(SF)]


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「この事件はわけがわかりません。殺人は殺人じゃないかもしれず、被害者は身元がわからず、その男が会っていた統合者のほうは、すでに統合されていたかもしれず、しかもおぼえているはずのことをおぼえていないという。めちゃくちゃですよ、ほんとに」
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単行本p.57


 多くの人々が疫病の後遺症により「ロックイン」と呼ばれる全身麻痺状態になっている近未来。遠隔操縦ロボットにリンクして捜査を行う新任FBI捜査官は、人使いの荒いパートナーと共に奇妙な殺人事件に挑む。次第に明らかになってゆく巨大な陰謀、そして二人に迫る暗殺者の影。『老人と宇宙』シリーズや『レッドスーツ』の著者によるSFミステリ長篇。単行本(早川書房)出版は2016年2月、Kindle版配信は2016年2月です。


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 全世界に新たな疫病が蔓延、その結果、多くの人々が亡くなった。しかもこの病気は、生き残った人々にも恐るべき後遺症をもたらしていた。意識ははっきりとしたまま、身体機能を喪失、罹患者の精神をその肉体の中に閉じ込めてしまったのである。人々はその状態を「ロックイン」と呼んだ。
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単行本p.323


 患者を全身麻痺させる症状「ロックイン」、そのような状態に陥った人々を指す「ヘイデン」、ヘイデンが代理身体として使うために開発された脳・マシン・リンク型の遠隔操縦ロボット「スリープ」、そしてヘイデンの脳とリンクすることで相手に自分の身体を使わせることが出来る「統合者」。

 様々な用語が登場して最初は混乱しますが、すぐに慣れるのでご安心。こうした特殊な設定のおかげで、単純に思える殺人事件の捜査がやたらと面倒になるというのが本書のミソ。

 何しろ、普通のミステリなら「容疑者Aが被害者Bを殺害した」ことを証明すれば犯人は容疑者Aということになるわけですが、この世界では「統合者である容疑者Aの身体を犯行時に動かしていたのは誰か」ということが問題になるのです。現場にいなかった容疑者の有罪を証明する証拠をつかむのがまた大変。

 一方、語り手となる捜査官もヘイデンであり、常にスリープを使って捜査を行うので、あるスリープから別の(それも遠く離れた場所にある)スリープに「乗り移る」ことで、遠隔地間を素早く移動するといった裏技が使えたりします。あと銃弾くらったりナイフでさされたりしても、すぐに別のスリープで復活できるというのもメリット。しかし、そのおかげで大変な激務に。


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「今日は、忍者スリープと格闘をしたし、ふたりの女性が亡くなった家族からの最後のビデオを鑑賞するのを見たし、二十フィート先で女性がひとり爆死したし、父さんが侵入者をショットガンで撃ち殺すのを目の当たりにした」コップをひとり取り出して、そこにバーボンを注ぐ。「少しでもまともな感覚が残っているなら、このボトルを自分の摂取チューブにつなぐだろうな」
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単行本p.238


 読者の期待通り、捜査が進むにつれて、事件は背景社会を根底から揺さぶるような陰謀へとつながってゆきます。謎解きよりも、むしろロックインやそのために急激に発達した脳内埋め込み型の人工ニューラルネットワーク、それによるブレイン・マシン・インタフェース、といった技術がどのような社会を作り出し、そこではどんな問題が起きるか、という思考実験に力点が置かれているように感じます。そういう意味では、ミステリ色よりもSF色の方が濃い作品です。

 というわけで、真面目でタフな新任FBI捜査官、人使いは荒いがリーダーシップに優れた女性上司、仕事が異様に早い有能な技術者、といった「いつものスコルジー登場人物たち」が軽口や愚痴を頻発しながら難題解決に挑む、といういつものスコルジー作品。他の作品に比べると地味ではありますが、最後まで確実に楽しめます。


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