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『うそつき、うそつき』(清水杜氏彦) [読書(ファンタジー・ミステリ・他)]


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 嘘をつくのはよくないことだとかみんなは言う。
 でも、そもそも嘘ってなんなのか。
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単行本p.6


 嘘発見器を内蔵した「首輪」によりすべての国民が管理されている近未来ディストピア。主人公は非合法に首輪を外す仕事を請け負っている少年、フラノ。だが、レンゾレンゾと呼ばれる首輪だけは彼にも解除できない。なぜ、そんな特別な首輪が存在するのだろうか。その謎に迫るフラノは、やがて首輪管理社会の根底に隠された秘密に辿り着くが……。爆破物処理にも似たサスペンスシーンを繰り返す連作短篇風のミステリ長編。単行本(早川書房)出版は、2015年11月です。


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「嘘をつくと、首輪のランプは赤く光る」
 いまじゃこの国のだれもかれもが首輪をつけてる。央宮が課した国民の義務なんだ。首輪をつけない人間は処罰の対象。この国はずいぶんおかしなことになっている。
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単行本p.8


 嘘発見器、発信器、音声レコーダなど様々な個人管理機能を内蔵した「首輪」の装着がすべての国民に義務づけられている超管理社会。嘘をつくとランプが赤く点灯して他人に知らせるという機能を嫌がる個人は多いものの、首輪を外そうとすることは違法行為であり、首輪を除去しようと試みただけで内蔵ワイヤが締まり、装着者を絞殺してしまう。


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「首輪には破壊試行探知機能がついているから、ふつうの人間には除去は不可能だ。無理矢理外そうとして破壊を試みれば、絶えず回路内を流れる信号が断絶された瞬間に首輪は締まり始めるだろう。首輪には除去防止のために何重もの保護機能が搭載されているけれど、除去が困難である最も大きな要素がこれだ」
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単行本p.180


 何とも嫌なディストピアを舞台としたミステリ長編です。「首輪」を安全に解除する特殊技能を持った少年、フラノが主人公。物語は、初めてプロとして首輪解除の仕事を始めた頃の出来事と、首輪社会に隠された秘密に接近してゆく現在の出来事が、交互に語られるという形式で進んでゆきます。

 フラノのもとには、数多くの依頼人がやってきます。命の危険を省みず首輪を外そうとする動機も様々で、同情の余地のない犯罪者もいれば、バレないよう嘘をつかなければならない何らかの切実な事情を抱えた善人もいます。

 前半は一話完結型のサスペンス短篇集のような趣で、イメージとしては「爆発物解除の専門家を主人公としたTVドラマシリーズ」のような感じ。無事に首輪を解除できる回もあれば、失敗して依頼人が死んでしまう回もある。毎回、どちらになるか予断を許さないので、否が応にも盛り上がるサスペンス。

 そろそろ読者がこの独特の世界観に慣れてきたあたりで、「謎」が少しずつ提示されてゆきます。どうやらこの首輪管理社会には、何らかの秘密が隠されているらしい。その象徴ともいえるのが、「レンゾレンゾ」と呼ばれる特殊な首輪の存在。


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「師匠。ぼくはまだあの首輪をつける依頼人に出会えていません」
「あの首輪?」
「レンゾレンゾです。ぼくはどうしたってあの首輪を攻略できるようにならなきゃいけない」
「レンゾレンゾか。出回っている数は多くない。巡り合える可能性は低い」師匠はごほんと咳払いを挟んで続けた。「フラノ、よいか。私はおまえさんにレンゾレンゾの攻略法を教えないのではない。そもそも攻略法が存在しないのだ」
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単行本p.161


 もしも攻略法のない完璧な首輪があるのなら、すべての首輪をそれにすべきではないか。逆に攻略法があるのなら、なぜフラノの師匠は嘘をつくのか。謎は次第に深まってゆき、やがてその「秘密」がそもそも首輪管理社会の根源につながっていることが分かってきます。そして、フラノの出生にも隠された秘密が……。


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「あなたの首輪には秘密が隠されている。あなたの父親があなたの首輪に託した秘密よ。私はその秘密を入手したかった。だからあなたに接触したの」
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単行本p.245


 いったい何が真実で、何が嘘なのか。次第に追いつめられてゆくフラノは、大切な人の命を救うために最後の賭けに出る。はたして彼は一度も成功したことのないレンゾレンゾ解除に成功するのか、それともまた犠牲者が増えるだけなのか。

 というわけで、(社会的にも技術的にも)あまりにも無茶な設定を前にして、多くの読者がたじろぐであろう作品です。個人的には、なんでボルトカッターか何かで首輪の機構部を破壊切断してしまわないのか(少なくとも解除に失敗してワイヤが締まり始めたら、迷わずそうすべきではないか)という点が最後まで気になりました。

 しかしながら単純明快な「赤と青、どちらのワイヤーを切断するか」的なサスペンスシーンを繰り返しながら、異なる動機と結果を用意して飽きさせない手腕は確かで、自分のやっていることが人助けなのか殺人なのか悩み続けるところも青春ミステリとして良く書けていると思います。ただし、ディストピアものということで、基本的に人があっさり無意味に殺されてゆく暗い話です。そういうのが苦手な方は、避けておいた方がいいかも知れません。



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