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『夢と幻想と出鱈目の生物学評論集』(小笠原鳥類) [読書(小説・詩)]


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 動く詩と動く動物についての文章。詩としての事典について。用語を詰め込んでいて密度が濃い冷静な言葉が、散文詩である。
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「『旺文社 生物事典』四訂版を読む飛ぶ夢と冒険」より


 図鑑など見ながら紡ぎだされてゆく夢と幻想と出鱈目、すなわち散文詩。生物の本をベースに独特の興奮とテンションに満ちたレム睡眠語を浴びせかけてくる詩集が宇宙から来たのです。同人誌(archaeopteryx)発行は2015年2月です。


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 私はこれから、生物学のまじめな本を見て読んで、実用的ではない夢の文章を書く。
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「あらゆるデザインを、『サイエンスビュー生物総合資料』を読んで夢見る」より


 最初は、ありがちな「いきものエッセイ」かな、と思うわけです。しかし、すぐに逸脱が始まり、夢の思考に入り、多くの場合UFOが飛びます。


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 コマイについて少し、近くにあった資料の本を適当に調べながら、適当に、見えた一部分を引用しながら書いてみたい。デタラメなことを私は書くことが、あるだろう。
(中略)
小学館の『万有百科大事典 動物』(一九七四)によると、「コマイ」は「硬骨魚綱タラ目タラ科の海水魚。」「外見はマダラに似ているが、体はやせ形で体長はふつう三〇cm以内、まれに五〇cmに達する。」ふつうは五〇cmにはならないのだな。五〇cmのコマイを見たら怪物であると思う。チョウザメが怪物だ。チョウザメが、ゴジラである。「背部に不明瞭な不定形の暗色斑がある。」不明瞭!不定形!で、UFOであるだろう。木星から来たんだ。ゼリーのような、しかしーー乾いたーー生き物が、UFOを、操縦している。コマイも木星のようなものだ。
(中略)
星が大量に集まって乾いている火星で、火星をムシャムシャ食べると石のようなコマイの干物だったという。
 冬の暗い海が、宇宙である。海も宇宙も、塩味だ。皮膚が宇宙の銀色の光を保存している、コマイの干物は宇宙から来た。ああ。
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「コマイの干物は宇宙から来た。ああ。」より


 「不明瞭」「不定形」という言葉にいきなり興奮して、UFOだ、木星だ、宇宙から来た、となる。なぜかそれがよく分かるという不思議。ああ。


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 よく知らないのだが「プリアプルス」は「分類上、どの動物門に属するか不明な点も多い。」不明な点を画面にザラザラと光って描き続けた「主として深海産の動物」UFOなのではないか「体は円柱状で」UFOについてのテレビも多かった。この事典ではこの生き物については、絵がなくて説明の文章だけなので「数多くの」「鋭い歯」サメのようなものなのか石のようなものなのかいつまでもわからない。UFOが着陸した跡を見て、わからない。
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「『旺文社 生物事典』四訂版を再び読む夢の化石の断片」より


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 ヘンゲボヤ(六五ページ)は漢字で書くと「変化海鞘」で、いろいろ変わるんだろう江戸時代の妖怪であった「群体はかなり硬い寒天質で、ホヤには見えない。」ホヤではないような、よくわからないものは、よくわからないではないか。何であるのかよくわからないものに見える。「個虫が増え、群体が大きくなると分裂して形を変える。」よくわからないものの絵も描いてあって、大きなものが分裂するとさらに大きくなるキノコであるのかもしれなくて、カビやコケであるかもしれなくて、ついに人間になった。
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「『まるごと海の生きもの』ウミウシなど」より


 「不明」というとUFO、「変化」というと妖怪。この思考の癖にはすぐに慣れます。一緒に興奮しましょう。


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 ウミウシの一種である、「カメノコシエラガイ科」のウミフクロウ(五二ページ)は漢字で書くと「海梟」は「体長10cm」であって、わりあい丸い生きものであるように思える。上から見ると(そのように絵で描かれているので。おお、このーー本は、写真ではなくて絵の本なのであるよ)。フクロウの腹のような模様があるんだろうか灰色で茶色のようでもあって、ホウホウと鳴くのか、あるいは水面から跳び上がってムササビを食うんだろうかモモンガを。ムササビは海のトビウオであるよなあ。ももんが。
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「『まるごと海の生きもの』ウミウシなど」より


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鵜飼いについてはゆっくり書いてみたいと思うことがある。おもしろくてとてもおもしろくて、そしてやがておもしろくて、どんどんおもしろくなっていくだろう。それからさらにおもしろくなって、楽しくなって、おもしろくておもしろくて、こんなにおもしろいものがあっていいのかと思うくらいおもしろい鵜舟(鵜舟かな、ではなくて、鵜舟ガメラ)について、非常に長い詩を書きたいと思うことがあるだろう。悲しみについては書かない。
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「『まるごと海の生きもの』ウミウシなど」より


 こんな言葉を書くのはいったいどんな詩人なのでしょうか。親切にも、「私についての百人の証言」という副題のついた作品が収録されています。鳥類図鑑ですね。さっそく読んでみましょう。


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(6)「その金属の建物である動く宇宙を移動、の中には大きなペンギンがいたし、大きなペンギンは怪獣で、テレビに出てきた、銀色の生き物と戦っていた戦わない、それから、ペンギンが食べながら話していた。食べながら歩く動物でした、何を言っていたかは映画なのでよくわからなかった、私は遠い国の遠い星の映画を見るだろうからSFで、SFの小説、小説の表紙の絵、それから翻訳で読むだろう。ガラスの水槽の中には花々が咲いていて、これを宇宙で運ぶと、別の星に花が咲くだろうということも予想した、この宇宙船の中であればとても暖かいな、私は北極を南極を動いて、宇宙船の中で花を食べて、これも、宇宙の、生き物」(水槽の中のペンギン)
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「おお、ペンギンが、南極と宇宙と湖を移動する
ーー私についての百人の証言ーー」より


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(36)「テレビができあがっていました。テレビでは、今日は怪物が発見されるのではないだろうかと、遠い文字が描かれていたが、あの人、山で、テレビから遠く離れていたから、テレビは遠くにある緑色の星でしたよ、緑色の湖を地図で見たら、この地図では絵の具が使われて、私は絵の具が並んでいる箱を見て、この箱、絵のように食べられるわ、私はクレヨンを食べるのですと言ったら、するとタラを食べる人は、タラであるならどのような色にも塗れるし、タラにはいろいろな料理があります、それからタラを並べて、タラ、タラと言った、タラと言ったのだよ、すると宇宙からタラが来たのです」(タラ)
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「おお、ペンギンが、南極と宇宙と湖を移動する
ーー私についての百人の証言ーー」より


 テレビ、怪獣、宇宙、そういうことなんだなというのは何となく分かります。


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