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『現代詩100周年』(河野聡子、川口晴美、西元直子、斉藤倫、四元康祐、他) [読書(小説・詩)]

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私たちTOLTAは、今年2015年を、現在書かれているような日本の無定形・口語の自由詩の成立から百年目であると宣言します。
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『はじめに』(河野聡子)より

 山村暮鳥の詩集『聖三稜玻璃』が出版されてから今年で100年。この「現代詩100周年」を記念するとともに、100年後の未来に向けて放たれた、100名近い詩人たちによる記念碑的アンソロジー。同人誌(TOLTA)出版は2015年10月です。


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無定形の現代詩は、それぞれの詩人が自分だけの定型、自分だけのリズムをつくり、言葉を組み合わせ、詩の意味を見出すことをそのつどそのつど行います。そしてこれこそが、そもそも詩が「現代」を名のるゆえんだと言えるかもしれません。ここには本質的に歴史はありません。暮鳥から百年たとうが二百年たとうが、私たちはそのつど自分で詩を見出していかなければなりません。私たちはくりかえしていかなければなりませんし、詩を書き続けなければなりません。
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『はじめに』(河野聡子)より


 一人につき一作、見開き二ページに一つの作品を掲載、という形式で、総勢97人の作品を載せた堂々たる現代詩アンソロジーです。エッセイや小説のように読める作品、言葉のリズムで押しまくる作品、文字で絵を描いたような作品、バイナリコードのように見える作品、警察の供述調書に書き込んだ作品、などなど、やりたい放題、現代詩。その楽しさは尋常ではありません。

 お気に入りの詩人の新作が読めるのはもちろんのこと、「現代詩に興味はあるものの、何を読んだらいいのか分からない」などと距離感を感じていた方のための入門書としてもうってつけ。

 どれも2ページで終わりますので、ショートショート集のような感覚で、気になった作品をどれでも気楽に読めばそれで良し。すべて良し。

 通販などの問い合わせは、TOLTAのページへどうぞ。

TOLTA
http://toltaweb.jp/

アンソロジー詩集「現代詩100周年」のページ(通販あり)
https://tolta.stores.jp/items/5604acd73bcba90af10048d0


[執筆者一覧]

相沢正一郎、亜久津歩、暁方ミセイ、阿部嘉昭、新井高子、
荒木時彦、ジェフリー・アングルス、一方井亜稀、一色真理、伊藤浩子、
今唯ケンタロウ、海埜今日子、榎本櫻湖、及川俊哉、大江麻衣、
大崎清夏、大谷良太、小笠原鳥類、岡本啓、小川三郎、
柿沼徹、柏原寛、金澤一志、カニエ・ナハ、金子彰子、
金子鉄夫、川口晴美、北川透、北爪満喜、城戸朱理、
木戸多美子、久谷雉、黒崎立体、小島きみ子、小林坩堝、
小峰慎也、紺野とも、斉藤倫、佐伯多美子、清水あすか、
白鳥央堂、管啓次郎、杉本真維子、鈴木一平、須永紀子、
瀬尾育生、関口将夫、高貝弘也、髙木敏次、高階杞一、
高塚謙太郎、タケイ・リエ、橘上、田中宏輔、田中庸介、
谷川俊太郎、為平澪、廿楽順治、冨上芳秀、時里二郎、
外山功雄、長尾早苗、永澤康太、中島悦子、ni_ka、
西元直子、根本明、野木京子、野村喜和夫、ぱくきょんみ、
支倉隆子、蜂飼耳、浜江順子、久石ソナ、日原正彦、
平川綾真智、広瀬大志、広田修、福田尚代、藤原安紀子、
文月悠光、ブリングル、ほしおさなえ、松井茂、松本秀文、
三角みづ紀、水無田気流、峯澤典子、宮尾節子、宮岡絵美、
ヤリタミサコ、四元康祐、和合大地、和合亮一、和田まさ子、
渡辺玄英、渡辺めぐみ


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私はメジロを見た時、とても大きな鳥であると思ったのだ。スズメよりももっと大きな動物であると思ったカンガルー思った、国語辞典がないと不安なんです、ということを教室で言っていると、この学校にはたくさんの国語辞典があって、わたしたち(先生)はいつでも国語辞典を調べて、比べて、数学でも使っていますよ、ということを説明、説明、説明、説明、説明される学校というのは恐ろしい場所である、メジロのように、あの、

おそろしいおそろしい、回転している映画、映画について調べていたらとても恐ろしいなあということを思っていた。メジロはヒヨドリよりも大きいのではないかと、私は思っていた。しかし図鑑によるとメジロは……とても小さな……鳥なのだそうだ。メジロを漢字で書くと、知らない漢字だ。私は辞書を見てもわからないことが多い。
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『メジロおそろしい』(小笠原鳥類)より


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現在の僕は詩を趣味で書いています。こんな僕を多くの方は「変な奴」だと思うようなのです。でも、そんなの関係ねー。やっぱり、僕って変なのかな。以前、両親から言われたことがあります。「あー何もかもがやかましい。近い将来、てめえが詩を趣味で書いていることで謂れのない差別や批判に遭遇することがあるかもしれないが、てめえが趣味で詩を書くことが人類の最後の希望なのだ」と。でも、そんなの関係ねー。僕は人類の最後の希望なのです。でも、そんなに特別扱いしちゃダメダメ。ちなみに、詩を趣味で書かれたことはありますか?詩を趣味で書くことは本当に勇気もいるし、羞恥心がすごく高まって虎になるような同業者もいますから、本当に大変なのです。どんなことを言われても、「僕は詩を趣味で書いております」としか答えることができません。時々、それが辛くなることがあります。おかま帽の同業者は「詩人は辛い」と居直ったらしいですから、大したものです。「詩人のふりをしているが私は詩人ではない」という新しい切り口の居直り方もあり、最も驚いた同業者で「ことばなんておぼえるんじゃなかった」という発言があります。僕の両親の教育は七割くらいただしかったのでしょう。暗い気持ちになることが全くありません。だって、僕は人類の最後の希望なのですから。すげえだろう。あ、こんな僕ですから趣味は詩と誤解されます。僕の趣味はセックスです。
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『好きなひとにこれから告白しようとする男の禁断トーク集』(松本秀文)より


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わっしょい!わっしょい! わっしょい!生命!
傷の治る現場では
癒着した細胞と細胞とが
歓声をあげながら
あっ。分裂し、だめだ。腐り、
わっしょい!わっしょい! わっしょい!生命!
化膿し、さようなら!膿は流れ。
おぎゃあ、ぼく細胞。
よろしく、細胞。わたしも細胞よ。
俺も拙者も身共もそれがしもまろも朕も細胞よ。
新しく生まれる。
わっしょい!わっしょい! わっしょい!生命!
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『わっしょい!生命! 九十二』(及川俊哉)より


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ぎゅんぎゅんぎゅんぎゅん、駆けずっておりました
機屋のまわりを
四つ足で、
毛むくじゃらで、むんむん曲がった鼻づらが、

喰らッちまったがですよ
べろらッと、
織り子らを
糸を吐きだす女らを、

「おもてへ出ろィ!」
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『機神考』(新井高子)より


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つぎつぎとひとを跳ねていく
ああ あれは殺人選挙カーだと
声がする
夢のように
ゆっくりと
沿道を襲う
大人も子どもも
老人も友人後援者さえも
つぎつぎと轢いていく 血みどろで
ためらいもなく
自由演技で
あれにはだれが乗っているのだろう
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『殺人選挙カーの襲来』(斉藤倫)より


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M/OTHER 二万円で太陽を盗んで一口サイズに切り取り部屋の暖房器具にした男に対し、彼にも彼の生き方があると五万円の皮ジャンを我々に与えてこれで冬を越しなさいと言ったM/OTHER、我々が寒い思いをするのは彼を信じられなかった罰なのですね。
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『M/OTHER』(橘上)より


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あべのハルカスから見晴らす安倍の春か
アベ・マリーア、次の一行には
[何か赤いものについて40字以内で記述しなさい]

今更だけど平和よりも憲法よりも詩の出来栄えの方がずっと大切
でもそこへ虫喰い穴から尺取りながら
愛が頭を突っ込むので話はややっこしくなっちまう

コンピュータはすべてを見切った挙げ句に猫の顔の幻を吐き出したそうだが
もしもかつて書かれた詩がこの世のサムネイルだとしたら
その集積からどんな残像が生まれるだろう
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『白球の軌道』(四元康祐)より


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界隈のひらいたところから
はしりだしたぬるい水
一幕ひとまくに目くばせの式目が
みちゆきを彩る
血で血をあらうゆたかさ
花房のゆたかさ
大阪らんちうのしわざでございます
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『大阪らんちう』(高塚謙太郎)より


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魚がじっとこちらを見ている。なんだか魚らしくない目でこちらを見ている。この魚、ヒトのような目つきをしているな。気のせいかすこし私に似ている。石組みの上に腰かけて休みながら魚を見た。地方都市の小さな植物園のなかのさらに小さな池のなかに名も知られずに一匹で棲んでいる魚の気持ちを考える。私にとてもよく似た魚。また魚と目が合う。
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『熱帯植物園』(西元直子)より


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やみのせまるなか雨が降りどこかでけものがひとつ鳴く
いつか豆腐みたいに白いマンションに暮らしてみたい
ひとりでもひとりでなくても ただしく折畳まれたい
かどのとれた佇まいですごす おだやかなゆうぐれ
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『ゆうぐれ』(タケイ・リエ)より


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骨に願いをぶら下げてしあわせになりましょう。光の速さで絡まってわたしの枕で眠った人よ、あなたはずっと毛布でいてください。それはライナスの毛布、枕を持って立ちすくむわたしは片頭痛のルーシー。谷底の暗渠はいつかカタコンベ、猶予をくださいモラトリアム、失言の湿原が広がってもいつだってどこだって寝られるのが特技です。早くいらっしゃい、テンピュールが砕けて真砂になる前に。激しい水圧でジョーゼットのスカートが吹き返されて所謂デフォルトの状態になり、ナオハルが口を滑らせなくてもパルテノン神殿は人々の縊、細かな花弁、内呼吸、行方知れずの白い封筒、眠る前の儀式
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『エルゴノミクス/嚮後』(紺野とも)より



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