SSブログ

『妖怪探偵・百目3  百鬼の楽師』(上田早夕里) [読書(ファンタジー・ミステリ・他)]

--------
すべてを観測する者。すべてを記録する者。すべてのつながりを知っている唯一の妖怪。(中略)
 過去、現在、未来。人間、妖怪、この世とあの世。人の外側と心の中。
 百目はどんな現場にも出現し、百の眼であらゆる事柄を見通してしまう。
 すべてを調べ、記録し、自分の中で永遠に保存する。
 それが妖怪探偵だ。
 神にも近い存在なのだ。
--------
Kindle版No.1351


 人間と妖怪が危うい均衡を保ちつつ共存している「真朱の街」に迫り来る最大の脅威。人も、妖怪も、それぞれの思惑と覚悟を胸に、ついに姿を表した〈濁〉と対峙する。短篇『真朱の街』を構想新たに発展させた連作シリーズ完結篇。文庫版(光文社)出版は2015年11月、Kindle版配信は2015年11月です。


--------
「人間なら誰でも憎悪の感情を持っている。同胞を憎み、運命を憎み、世界を憎む心を。それは自己保存のための本能だ。おまえだけが、そういう感情と無縁でいられるはずがない。おれはおまえの中 にある、その最も醜い部分が欲しい」
--------
Kindle版No.2428

--------
「人間という存在は……唯一、自分で自分の在り方を否定できる生き物なんだよ。妖怪には想像もつかないだろう。自分自身の意思によって、自滅の道を選べる生き物がいるなんてことは。私はこの呪文によって自分自身を憎んでやまなかった自分の心を祓う。そして諸共におまえを滅ぼす」
--------
Kindle版No.3065


 軌道上の太陽発電衛星から、再生医療や遺伝子工学、人工知能に至るまで高度なテクノロジーが実用化されており、その一方で妖怪に対抗するための陰陽道や呪術もまた普及しているという、いかにも「異形コレクション」を源流とする歪な世界にある「真朱の街」、妖怪と人間が打算と駆け引きによって共存している街。

 この街で探偵業を営んでいる絶世の美女妖怪・百目と、彼女に寿命を吸われつつ文字通り命を削って働いている助手の相良邦雄。二人は今日も怪事件に挑んだり、挑まなかったり。

 という、のんびりした雰囲気を吹き飛ばすように、ついに姿を表した大妖怪〈濁〉。あらゆる妖怪を、そして人の悪意や憎悪の念を、次々と吸収しては果てしなく成長してゆく敵、倒せない敵。


--------
「力の問題ではないんです。〈濁〉は播磨との関わりによって育った妖怪です。だから、呪術的な意味において、あれを倒せるのは播磨だけです」
--------
Kindle版No.2175


 警察組織の中で矛盾と葛藤に苦しむ刑事、忌島。妖怪と人間、自分はどちらの味方をすべきなのか。禍々しい力を持つ呪われた銃を手に、彼は自らの運命に立ち向かってゆく。


--------
誰かを傷つけて勝つぐらいなら、誰かを守って負けるほうがいいと思った。人としての誇りを胸に抱いて負けるのだ――と。
(中略)
「――絶望することには慣れている」忌島は苦痛に脂汗を流しつつも、にやりと笑った。
--------
Kindle版No.451、2547


 命を捨てる覚悟を決めた相良は、百目に別れを告げることに。


--------
人間の人間性を嗤い、人間をおちょくり、血と寿命を吸うのが妖怪じゃないんですか。僕は百目さんに、どんなときでも人間の営みを嗤う妖怪でいて欲しい。同胞である妖怪すら嗤う者でいて欲しい。
--------
Kindle版No.1207


 交差するそれぞれの思惑。自分は何を守りたいのか。自分はどのような存在であるのか、ありたいのか。悩み迷い苦しむ人間たち、そして別に悩まない妖怪たち。


--------
「おれも百目も妖怪だ。だから、妖怪としての立場しか取りようがない。いっぽう、播磨は人間の都合しか考えていない。あいつにも迷いはないだろう。だが、忌島さんやあんたは違う。真ん中を行く人だ。忌島さんは組織の中でそれをやろうとしている。あんたは個人としてやればいい」
--------
Kindle版No.1434


--------
「私たちは、妖怪のやり方で〈濁〉と対峙しましょう。人間みたいに深刻に闘う必要はないわ。楽しくやればいいのよ」
--------
Kindle版No.2216


 そして、捨て身の戦いに挑む陰陽師、播磨。


--------
「ずいぶん力を使ってしまった。もう、あまり余裕がない。一発勝負で決める。百目とも話したが、外にいる妖怪たちによろしく伝えてくれ」
--------
Kindle版No.2917


 というわけで、物語は大団円を迎えてきれいに終わります。正直、探偵業の日常篇をもう少し長く書いて欲しかったという気もしますが、当初からの予定通りとのことなので仕方ありません。


タグ:上田早夕里
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0