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『読めよ、さらば憂いなし』(松田青子) [読書(随筆)]

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 本はどうしてこんなに素敵なものなんだろう。読んでいる間も、手に取り表紙を眺めている間も、しみじみそう思ってしまう。どこにでも持ち運べるし、ページを開けば別世界に連れて行ってくれる。装丁も一冊、一冊工夫されているので、家の本棚に良い装丁の本が並んでいるのを見ると、気持ちが満たされる。
(中略)
 いろんな人が、いろんなタイミングで面白い本にどんどん出会えたらいいなと思う。苦しい時、悩んでいる時、世界に違和感を覚えた時、どんな時も本は必ず側にいてくれる。本は最強の友人である。
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単行本p.189、190

 『スタッキング可能』『英子の森』の著者が、大好きな本と映画について熱っぽく語る第一エッセイ集。単行本(河出書房新社)出版は2015年10月です。


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どの瞬間も本を読んだ。音楽を聴いた。映画を見た。自分を見ないために、今の自分の現実を見ないために、私はあこがれを集め続けた。あこがれまみれの私は、いつまで待ってもフィクションの世界みたいにならない現実にイライラし、現実に呆れたまま年を重ねた。自分の夢は小さな頃から小説家か翻訳家で、そうでない自分と自分の現実に興味が持てず、目を背け、やる気がないまま三十歳になろうとしていた。
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単行本p.127


 書評と映画評を集めたエッセイ集です。全体の2/3が読書まわりの話題で、残りが映画という分量になっています。書評といっても堅苦しい雰囲気ではなく、むしろ気心の知れた友人に自分が好きな本を熱心に勧めるような感じ。好きだ、嬉しい、という気持ちがぐいぐい伝わってきます。


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 時間があまりない時は、オアの出てくるところを重点的に読み直す。私の本には、オアの出てくるパート専用の付箋が貼ってある。オアのことが一番好きなのだ。(中略)この先もずっと、この小説が読まれ続け、たくさんの人がヨッサリアンのように、オアに出合えたらいい。
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単行本p.114、117


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見慣れた日常がそれこそリンスをされたように、キラキラ輝いて見える。この世に存在するすべてのものが新たな輪郭を持ち、目の前に現れる。それに、自信がなかったことや誰も同意してくれなかったこと、今まで誰も教えてくれなかったことを、ああ、やっぱりこれで良かったんだと思える。例えば、特別なものじゃなくても、どんな小さなものでも、あなたが好きなら、どんなものでも好きで良いし、すごく好きで良いのだ、とか。
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単行本p.134


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腹が立った時とかそれこそ誰かにナメられた時には(人って本当に人をナメる生き物!)、私は必ずこのマンガを読む。私のかわりにギーコがチェーンソーを振り回してくれる。タランティーノの『デス・プルーフ』や、アルドリッチの『カリフォルニア・ドールズ』でしか上がらないテンションがこの世にあるように、『血まみれスケバンチェーンソー』だけが晴らすことのできる気持ちがこの世にはある。
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単行本p.140


 お気に入りの本だけでなく、読書それ自体の素晴らしさ大切さをストレートに訴えてくるエッセイも多く、読書好きなら誰もが共感することでしょう。そう、そうなんだよ、と。


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「どんな人もこれを読まずに育ってはいけない、と本屋が教えてくれたものばかりです」
 リンさんからプレゼントされた本を読みながら成長したポーリィは、最後に、読書で培った知識と機転と想像力で、ある戦いに臨むことになる。『九年目の魔法』は、読書という行為の面白さ、大切さについて書かれた本だ。「魔法」とは、「読書」のことなのだ。(中略)『九年目の魔法』に出合った日から、私はいつも、誰かのリンさんになりたいという気持ちで書いている。
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単行本p.188


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「小説を読むということは、その体験を深く吸いこむことです」とアーザルは授業で生徒たちに言うのだが、小説を読むことで、彼女たちは自分の体験を客観視することができ、そして過酷な現実から逃げることもできた。読書によって自らの尊厳を守った女性たちのこの圧倒的な物語を読むと、すごく心強い気持ちになる。きっと彼女たちの勇気と強さを深く吸いこんだからだ。
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単行本p.83


 こうあるべき、そういうことをしてはいけない、そういうのは普通じゃない。何かというと押し付けられてくる理不尽な規範から逃れて、自分の人生を自由に好きなように生きる。そのために、読書が、特に女性にとって、どれほどの勇気と洞察とパワーを与えてくれるかを切実に語ります。そうするうちに、話題は、必然的に、フェミニズムへと。


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「だれかと恋人同士になるとき、よろこびの陰で、性別があることによって人類がくり返してきたことに自分もまた飲みこまれるのか、という苦しさがいつもつきまとっていたことを思い出す」という箇所には、私の中にも確かにこの苦しみがあったことに驚かされた。
 ページをめくればめくるほど、星や光のようなきらきらしたもので体の中が満たされ、うれしい事実に気づかされる。心を解放し、自由に生きるということは、自分にとってだけでなく、世界にとっても良いことであるのだと。
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単行本p.67


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「母、フェミニズムに出合う」「母、韓流にハマる」、この二つのムーブメントを、私は別個の出来事としてとらえていた。それが『さよなら韓流』を読んだとき、一本の糸でつながった。そうだったのか!! と目が大きく開く思いだった。韓流とはフェミであったのだ。韓流にハマった女たちの日々がいかに「自信と幸福」に満ちたものだったのか私は知らなかった。
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単行本p.14


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 上の世代であるほど、フェミニズムが「ヒステリックな女たちが言い出した面倒なもの」「お堅くて退屈なもの」扱いされていたときを体感していて、フェミニストだと公言しにくいのではというのはなんとなく感じてきたことだ(特に日本だと)。96年生まれのタヴィ・ゲヴィンソンを筆頭に、そういう時代の空気感を実際に経験していない若い女の子たちがフェミニズムに興味を持って調べてみたときに、フェミニズムってクールだ、面白い、これは私もやりたいと思うのならば、それがフェミニズムの本来の姿であるはずだ。そして彼女たちにそう感じさせた、これまで戦ってきたフェミニストたちは決して間違っていなかったという証しでもある。
(中略)
 フェミニズムはクールで楽しくて、情熱を感じることができて、もっと手軽に日常に取り入れることができ、日常を変えることができるものだ。女も男も関係なく、誰もが自分らしく暮らすことができる、新しい世界をつくろうとする明るい意志のことだ。
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単行本p.249、250


 というわけで、大好きな本、読書ということ、そしてそれが自分らしく生きるためにどれほど大切かを熱く語ったエッセイ集です。『スタッキング可能』や『英子の森』を読んでそのクールさにシビれた読者、大好きな本についてあふれる想いを語り合いたい方、そしてフェミニズムとの距離感に迷っている方、特に若者にお勧めします。読めばいっぱい本を買ってしまう、呼び水のような一冊。


タグ:松田青子
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