『SFマガジン2015年10月号 伊藤計劃特集』 [読書(SF)]
隔月刊SFマガジン2015年10月号は、「伊藤計劃特集」ということで、マデリン・アシュビーの伊藤計劃っぽい短篇が翻訳掲載されました。また読み切りとして、上遠野浩平、早瀬耕、ラファティ、そして本年5月に亡くなったタニス・リーの中篇が、それぞれ掲載されました。
『イシン ー維新ー』(マデリン・アシュビー、幹遙子:翻訳)
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聞いた話では、イシンとは超小型のドローンを使った監視協調システムのことだった。これはまた、変革と復興をあらわす江戸時代の言葉でもある。(中略)すべてのロボットでイシンが使えるようになれば、一機のドローンもしくはパック・ボットに話しかけるだけで、利用可能なすべての搭載機がそのコマンドを理解し、協調して動きはじめるようになるだろう。
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SFマガジン2015年10月号p.67
アフガニスタンに投入された無数の監視ドローン。分散型自律協調ドローンシステムの可能性を夢見る若者が出合った、一人の老戦士。超小型ドローンにより視覚と聴覚を遠隔共有し、特殊繊維を織り込んだスマート衣服で触覚をも共有する二人は、未来のために共闘するが……。
特集の一環で翻訳された短篇。状況設定は確かに伊藤計劃っぽいのですが、何と言っても、ドローンをハッキングするコマンドが「上上下下左右左右」というのが、らしさというもの。
『無能人間は涙を見せない』(上遠野浩平)
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ウトセラ・ムビョウは製造人間である。
その奇妙な肩書きは彼の特殊な能力に由来している。彼は不思議な液体を生成することができる。それは人間を、常識を超えたパワーを有する合成人間へと変化させることができる薬液なのだ。その貴重さ故に彼は世界中から狙われている。
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SFマガジン2015年10月号p.226
またも追われて閉鎖空間に逃げ込んだウトセラ。周囲にいるのは、血まみれで床に横たわる女と、無能な子ども。外ではウトセラをめぐって対立する組織がドタバタと殺し合いをしているが、我関せずといった風情のウトセラは、哲学的とも衒学的ともつかぬ自分勝手な理屈を、子どもに向かってこね続けるのだった。
SFマガジン2015年2月号に掲載された『製造人間は頭が固い』(上遠野浩平)の続編、シリーズ第二弾。個人的に、面白がるべきポイントがよく分かりません。
『彼女の時間』(早瀬耕)
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この腕時計は、23年間、そして、いまも彼女に忠実だった。
彼女の時間が遠離っていく。
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SFマガジン2015年10月号p.335
宇宙飛行士を目指しつつ、夢叶わなかった男。その腕には、かつて恋人から贈られた機械式腕時計がずっと巻かれていた。腕時計が刻む時間と男の生きてきた時間、その間には小さなずれがあった。
小説としてのレベルが高く、読後に何とも言い難い感動を覚える傑作。
『苺ヶ丘』(R・A・ラファティ、伊藤典夫:翻訳)
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金曜の夕方とあって、迷子谷の山猫団は不定期の集まりを開いた。山猫団は世界でもっとも秘密の結社で、団員はふたりしかいない。ジミー・ウエアとポール・ポッターで、それぞれ9歳と9歳半である。
それは誓約でかたく結ばれた結社であり、その存在は世界ではまったく知られていなかった。しかし成立してまだ十日なのに、山猫団は惨憺たる破壊の輪を広げていた。
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SFマガジン2015年10月号p.341
人食いの噂が絶えない、薄気味悪い三人の住民がすんでいる町はずれの「苺ヶ丘」。そこを探検しようと企てた子供は、彼らにあっさり捕まってしまい、夕食にされそうになる。ありがちなホラーと思いきや、そこは、やはりラファティ。
『罪のごとく白く、今』(タニス・リー、市田泉:翻訳)
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かつてイドレルは一つの世界に住み、今はこの世界にいる。夢を見ているのだと考えて、この状況を貶めることはしない。だがことによると、彼女はだれか別の人間の夢の一部なのかもしれない。
そう考えつつ、自分の青白い手をしげしげと見る。新しいカフスは黒で、両方に彼女の巻毛がこぼれている。巻毛は火に照らされ、荒々しい色を帯びている。イドレル自身にとっても、見守る者にとっても、目に鮮やかな色の取り合わせだ。黒檀のごとき黒、血のごとき赤、雪のごとき白。
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SFマガジン2015年10月号p.362
豪奢な宮殿のなかを彷徨い、幽霊となった娘を探し続ける狂った王妃。雪に閉ざされた廃墟のなかで狼男と暮らす美しい娘。小人、魔女、ユニコーン、ヴァンパイア。どれが現実で、どれが夢なのか。様々なおとぎ話のかけらをモザイクのように組み合わせ、艶かしき色彩あふれる異様なファンタジー世界を紡ぎあげた中篇。
『イシン ー維新ー』(マデリン・アシュビー、幹遙子:翻訳)
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聞いた話では、イシンとは超小型のドローンを使った監視協調システムのことだった。これはまた、変革と復興をあらわす江戸時代の言葉でもある。(中略)すべてのロボットでイシンが使えるようになれば、一機のドローンもしくはパック・ボットに話しかけるだけで、利用可能なすべての搭載機がそのコマンドを理解し、協調して動きはじめるようになるだろう。
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SFマガジン2015年10月号p.67
アフガニスタンに投入された無数の監視ドローン。分散型自律協調ドローンシステムの可能性を夢見る若者が出合った、一人の老戦士。超小型ドローンにより視覚と聴覚を遠隔共有し、特殊繊維を織り込んだスマート衣服で触覚をも共有する二人は、未来のために共闘するが……。
特集の一環で翻訳された短篇。状況設定は確かに伊藤計劃っぽいのですが、何と言っても、ドローンをハッキングするコマンドが「上上下下左右左右」というのが、らしさというもの。
『無能人間は涙を見せない』(上遠野浩平)
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ウトセラ・ムビョウは製造人間である。
その奇妙な肩書きは彼の特殊な能力に由来している。彼は不思議な液体を生成することができる。それは人間を、常識を超えたパワーを有する合成人間へと変化させることができる薬液なのだ。その貴重さ故に彼は世界中から狙われている。
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SFマガジン2015年10月号p.226
またも追われて閉鎖空間に逃げ込んだウトセラ。周囲にいるのは、血まみれで床に横たわる女と、無能な子ども。外ではウトセラをめぐって対立する組織がドタバタと殺し合いをしているが、我関せずといった風情のウトセラは、哲学的とも衒学的ともつかぬ自分勝手な理屈を、子どもに向かってこね続けるのだった。
SFマガジン2015年2月号に掲載された『製造人間は頭が固い』(上遠野浩平)の続編、シリーズ第二弾。個人的に、面白がるべきポイントがよく分かりません。
『彼女の時間』(早瀬耕)
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この腕時計は、23年間、そして、いまも彼女に忠実だった。
彼女の時間が遠離っていく。
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SFマガジン2015年10月号p.335
宇宙飛行士を目指しつつ、夢叶わなかった男。その腕には、かつて恋人から贈られた機械式腕時計がずっと巻かれていた。腕時計が刻む時間と男の生きてきた時間、その間には小さなずれがあった。
小説としてのレベルが高く、読後に何とも言い難い感動を覚える傑作。
『苺ヶ丘』(R・A・ラファティ、伊藤典夫:翻訳)
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金曜の夕方とあって、迷子谷の山猫団は不定期の集まりを開いた。山猫団は世界でもっとも秘密の結社で、団員はふたりしかいない。ジミー・ウエアとポール・ポッターで、それぞれ9歳と9歳半である。
それは誓約でかたく結ばれた結社であり、その存在は世界ではまったく知られていなかった。しかし成立してまだ十日なのに、山猫団は惨憺たる破壊の輪を広げていた。
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SFマガジン2015年10月号p.341
人食いの噂が絶えない、薄気味悪い三人の住民がすんでいる町はずれの「苺ヶ丘」。そこを探検しようと企てた子供は、彼らにあっさり捕まってしまい、夕食にされそうになる。ありがちなホラーと思いきや、そこは、やはりラファティ。
『罪のごとく白く、今』(タニス・リー、市田泉:翻訳)
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かつてイドレルは一つの世界に住み、今はこの世界にいる。夢を見ているのだと考えて、この状況を貶めることはしない。だがことによると、彼女はだれか別の人間の夢の一部なのかもしれない。
そう考えつつ、自分の青白い手をしげしげと見る。新しいカフスは黒で、両方に彼女の巻毛がこぼれている。巻毛は火に照らされ、荒々しい色を帯びている。イドレル自身にとっても、見守る者にとっても、目に鮮やかな色の取り合わせだ。黒檀のごとき黒、血のごとき赤、雪のごとき白。
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SFマガジン2015年10月号p.362
豪奢な宮殿のなかを彷徨い、幽霊となった娘を探し続ける狂った王妃。雪に閉ざされた廃墟のなかで狼男と暮らす美しい娘。小人、魔女、ユニコーン、ヴァンパイア。どれが現実で、どれが夢なのか。様々なおとぎ話のかけらをモザイクのように組み合わせ、艶かしき色彩あふれる異様なファンタジー世界を紡ぎあげた中篇。
タグ:SFマガジン
2015-08-27 14:57
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