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『念力ろまん』(笹公人) [読書(小説・詩)]

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9の字に机ならべていたりけり夜の校庭はせいしゅんの底
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「黒板に吸い込まれる」と叫んでらフィラデルフィア事件をググりしばかりに
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なめくじのテレポーテーション数えつつこの遊星の冬を耐えおり
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 『抒情の奇妙な冒険』から七年、ついに帰ってきた念力短歌。特定世代のハートを震わせるハイコンテクスト歌集、ここにリブート。単行本(書肆侃侃房)出版は2015年5月です。

 というわけで念力短歌シリーズの最新作です。「念力」という古めかしい言葉から滲み出てくる、あの気恥ずかしさ、懐かしさ、そしていまだに残る何ともいえない不安感。それらがごたまぜになった、どうにも扱いに困る抒情。とうに時代から取り残されたノストラダムス時空が、無形文化財として保護もされず、そのまま息づいているようです。


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夏の夜の霊界テレビ エジソンの白衣の裾を映して消えた
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エレキングの放電に照る湖のほとりで笑うニコラ・テスラ氏
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セキセイインコがガッツ星人に見えるまで酔いし夜あり追いつめられて
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 霊界ラジオのエジソンと放電怪人テスラ、永遠のライバル対決が読める歌集は(たぶん)念力短歌だけ。酔っぱらって夜の街灯を指差し「ペガッサ星人!」と叫ぶ世代の心を強く揺さぶる作品が並びます。


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ラッセンの絵を勧めたる美女去りて壁のイルカと暮らしはじめる
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スフィンクスの両目の放つ光線が俺のチャクラを刺激するから
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運転手も家族もみんな立ってる人生ゲームの外車(コマ)の静けさ
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 ありし日々の、あの、みっともなさが、こう、今にしてこみ上げてきたりして、切ないなあ、1999年8月以降の人生は。


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宮崎の夜道を歩くつかのまの卑弥呼・古墳で終わるしりとり
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池の主を刺身にしたる三郎の奇病あやうし夜の呻き声
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虹の根にふれた河童の水かきが3センチほど切れてた話
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 どこか懐かしい、民話のような怪談、古代史ロマン。わしらの心のツボを的確に押してきます。


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「大霊界」のパンフ求めて祖父(おおちち)が四つ折りの五百円札を広げたり
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夕焼けの鎌倉走る サイドミラーに映る落武者見ないふりして
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にんげんのともだちもっと増やしなと妖怪がくれた人間ウォッチ
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 思わず、ふふふ、と笑ってしまうようなユーモラスな作品も点在していますが、それでも直後にふっと遠い目をして「すまん」と思わず謝ってしまいそうに。

 正直なところ、若い世代の読者がどんな風に感じるのか想像できないのですが、それはまあ、「あとは若い二人にお任せることとして」、私たちの世代は静かに隠れて気恥ずかしみたい。そんな念力歌集です。


タグ:笹公人
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