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『田中一村の世界 孤高・異端の日本画家』 [読書(教養)]

昭和34年3月、田中一村の知人あて手紙より
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いま私が、この南の島へ来ているのは、
歓呼の声に送られてきているのでもなければ、
人生修行や絵の勉強にきているのでもありません。
私の絵かきとしての、生涯の最後を飾る絵を
かくためにきていることが、はっきりしました。
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 1995年3月から1996年3月まで、一年間に渡って全国をまわった「田中一村の世界」展のために発行されたガイドブック。NHK出版による発行は1995年です。


 先日、『アウトサイダー・アート入門』(椹木野衣)を読んで、気になっていたのです、田中一村。

  2015年05月01日の日記
  『アウトサイダー・アート入門』(椹木野衣)
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2015-05-01

 その作品および資料を集め、1995年から1996年にかけて開催された展覧会「田中一村の世界」のガイドブックが本書です。今から20年前、田村一村「発見」の興奮いまださめやらない当時の熱気と興奮が伝わってきます。


「ごあいさつ」より
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 “日本美術界の奇跡”とまでいわれた一村の発見から十年以上経た今日でも、千葉時代を中心とする前・中期の作品の多くは、知人や親戚の家々に密かに眠っています。それでも一村の名は脈々と生き続け、再び一村の世界に接する機会を望む多くの人々の声が寄せられました。
 そこで今回、再度作品調査を行い、一村の孤高の絵画世界、その全容を紹介する展覧会を開催することになりました。
 今回の展覧会は、出展作品の約1/3がこの調査によって発掘された未発表の作品群であり、残り2/3は前回の出展作品の中から一村を語るうえで欠かせない代表作が出品される構成となっており、文字どおり、一村の生涯と芸術、その全貌を一堂に展覧する内容となっています。
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「田中一村が見たい」(比嘉加津夫、琉球新報1988年8月30日)
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 書簡で見る一村は俗の意識を身辺から一切かなぐり捨てて、ひたすら画の世界に没入し、精神をとぎすませている。そしてそのことを誇りにしている。これは近寄りがたい孤高の姿をイメージさせる。あるいは、この意識、精神にはついていけないというものすら感じさせる。
 それでいながら一村がある衝撃力をもって私たちの前に現れてくるのは、そこにどうしようもない悲劇の姿を顕現させているからだ。あるいは、彼が排斥した俗の世界からは不幸としか言いようのない道程を、格闘しながら歩いたからだ。
 一村自身に、自からの悲劇性が意識されていたとは思わない。おそらく一村は、絵とか芸術とかいったものの持つ魔性にとりつかれていたのである。一村の書簡はそのことをよく伝えている。だが、何よりも書簡以上に絵はそれをよく伝えている。
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 展覧された作品がすべて掲載されている他に、作品目録、略歴、手紙、解説など資料類も充実している105ページのガイドブック。1995年における評価やイメージ、受容のされ方を伝えてくれる歴史資料的な価値があると思います。さきほど確認してみたところアマゾンには出品されてないようなので、手に入れるには古書店などを回るしかないでしょう。もちろん田中一村の画集は現在まで途切れることなく出版されていますので、作品を御覧になりたい方はそちらを探してみて下さい。


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