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『Down Beat 6号』(柴田千晶:発行者代表) [読書(小説・詩)]

近況報告(徳広康代)より
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知り合いも少ないこの地方都市で、二度と会うこともないタクシーの客にだから気も緩んで、普段口に出さずにいたことを話したのかもしれない。原電の作業員はとても給料がよくて、そのために働いたのだといっていた。燃料棒を扱う時、身につけた警報器が鳴ると作業ができなくなる。そうすると給料も減る。だから鉛の防護服の内側に警報器を入れて鳴らないようにして作業していたのだそうだ。そのころ、そんなふうに無理をして働いた仲間の人たちは皆膵臓癌で死んでしまったと言っていた。きまって膵臓癌なのだそうだ。
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 詩誌『Down Beat』の6号を紹介いたします。お問い合わせは、次のフェイスブックページまで。

  詩誌Down Beat
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Down Beat 6号
[目次]

『幸あれ』『エスカレーター』(徳広康代)
『回転』(中島悦子)
『やきゅう(午)』(今鹿仙)
『路上にて』(小川三郎)
『赤居さん scene8』(柴田千晶)
『朝』『夜』(金井雄二)
『鞍馬』『釣り堀』(廿楽順治)


『幸あれ』(徳広康代)より
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それはとても自分の心によかった

地下鉄で前に座っている
古文練習帳をやってる男子に
「幸あれ」と心でとなえてみた
隣の疲れて座ったおばあさんにも
「幸あれ」ととなえてみた
新聞読んでるおじさんにも
「幸あれ」ととなえてみた
それはとても自分の心によかった

ということで
いやなやつの前でも
となえてやろうと思ったが
それはやっぱり
ちょっと無理
だった
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『路上にて』(小川三郎)より
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どこかのじじいが
私の最後を見て
口を開けていた。
なにか意見を言いたいらしかったが
私は私の最後を遂げていただけで
なにかを訴えたいわけではなかった。

最近の若者たちは
私の最後など興味がないようで
いくら苦しいうめき声を上げようと
平然と横断歩道を渡っていく。
腕組みなんかして
なんとも偉そうだ。
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『赤居さん scene8』(柴田千晶)より
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赤居さんはふとしたときにあたしのことをミヤコって呼ぶ。あたしの知らない女の名前。あたしをミヤコって呼んでしまったあとの赤居さんは少し乱暴になる。赤居さんはこの世にぜつぼうしている。赤居さんのぜつぼうがあたしは愛おしい。きっとミヤコさんは赤居さんの神サマなんだ。あたしにとってのかあさんみたいな。

朝からずっとワイドショーを見ている。倉庫の仕事がおやすみのときはいつも。今日もミイラ化した老人が家の中ではっけんされた。ビニール袋に包まれたおじいさんの遺体。おくさんがひとりで包んだらしい。さいきんだんなさんを見かけないって、おせっかいな近所のひとがつうほうしておじいさんは発見されてしまった。あたしの家もそのうちしんせつな近所のひとのつうほうで、床下からかあさんが発見されて、あたしもきっとワイドショーのひとたちに囲まれてしまう。
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