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『ファイン/キュート 素敵かわいい作品選』(高原英理:編) [読書(小説・詩)]

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ただキュートなだけではない。私がこれ、と思う文学作品は、そのキュートさが必ず何かの素敵さとともにあった。(中略)文学に見つかる心打つ可愛さは、キュートなだけでなくファインでもある。逆に、言葉でキュートを伝える文学作品はいつもファインです。
 それで、今回、私の心に残った「素敵かわいい」文学作品を集めて、ファインでキュートな作品のアンソロジーをお届けすることになりました。
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文庫版p.8

 海外と日本の絵本、小説、詩、短歌、俳句、随筆、日記、さらには怪談実話まで。ファインでキュート、素敵かわいい、そんな文学作品を集めに集めた素敵なアンソロジー。文庫版(筑摩書房)出版は2015年5月です。

 目次を見るだけでファインな気持ちになる凄いアンソロジーです。古典から新作まで、動物、子供、老人、シチュエーションそのものに至るまで、とにかくキュートなことを書いた文学を集めてくれました。


[目次]

『プラテーロ』(フワン・ラモン・ヒメーネス、長南実:訳)
『手袋を買いに』(新美南吉)
『ちびへび』(工藤直子)
『雀と人間との相似関係』(北原白秋)
『誕生日』(クリスティナ・ロセッティ、羽矢謙一:訳)
『「日記」から』(知里幸恵)
『蝉を憎む記』(泉鏡花)
『悼詩』(室生犀星)
『聖家族』(小山清)
『永井陽子十三首』(永井陽子)
『スイッチョねこ』(大佛次郎)
『小猫』(幸田文)
『ピヨのこと』(金井美恵子)
『私の秋、ポチの秋』(町田康)
『おかあさんいるかな』(伊藤比呂美)
『アリクについて』(カレル・チャペック、伴田良輔:訳)
『銀の匙(抄)』(中勘助)
『少女と海鬼灯』(野口雨情)
『ぞうり』(山川彌千枝)
『夕方の三十分』(黒田三郎)
『杉崎恒夫十三首』(杉崎恒夫)
『月夜と眼鏡』(小川未明)
『マッサージ』(東直子)
『あけがたにくる人よ』(永瀬清子)
『妻が椎茸だったころ』(中島京子)
『雑種』(フランツ・カフカ、池内紀:訳)
『二つの月が出る山』(木原浩勝・中山市朗)
『一対の手』(アーサー・キラ=クーチ、平井呈一:訳)
『鳥』(安房直子)
『チェロキー』(斉藤倫)
『マイ富士』(岸本佐知子)
『池田澄子十三句』(池田澄子)
『電』(雪舟えま)
『水泳チーム』(ミランダ・ジュライ、岸本佐知子:訳)
『うさと私(抄)』(高原英理)


 個人的には、どうしても「動物」のキュートさにやられてしまいます。同時に、そんなことをわざわざ書いてしまう著者の心根にも素敵なものを感じます。また、それを見逃さずにアンソロジーに収録してしまった編者の心意気にも。

 いくつか引用しておきます。猫、犬、蛍、ウサギの順番に。


『雑種』(フランツ・カフカ、池内紀:訳)より
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 半分は猫、半分は羊という変なやつだ。父からゆずられた。変な具合になりだしたのはゆずり受けてからのことであって、以前は猫というよりもむしろ羊だった。今はちょうど半分半分といったところだ。頭と爪は猫、胴と大きさは羊である。(中略)
いくらなんでも二匹分は多すぎる----かたわらの肘掛椅子にとびのると、私の肩に前足をのせ、耳もとに鼻づらをすりよせてくる。そっと打ち明けている具合であって、実際そのつもりらしく、つづいて私の顔をのぞきこみ、こちらの反応をたしかめようとする。よろこばしてやりたいものだから、私がわかった、わかったというふうにうなずくと----すると床にとび下りて、小おどりしはじめるのだ。
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『ピヨのこと』(金井美恵子)より
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その後飼った多くの猫たちに、わたしたちは二度とピヨという名前はつけなかった。ピヨ以外の多くの猫たちもそれぞれ可愛いところはあったけれど、ピヨに比べれば、まあ、残酷なようだけれども、白痴みたいに自分勝手にふるまう猫ばかりで、同じ猫とも思われないのである。
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『おかあさんいるかな』(伊藤比呂美)より
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 そういえばタケには、私が日本から帰ってきた夜にもその次の夜にも、危険を冒して二階に上がってくる習性、ないしは癖がある。そして私は、ひんぱんに日本に行ってしばらく戻ってこない習性というか、暮らし方をしている。日本から帰ってきた直後、私は時差ボケで眠りが浅くなっているから、タケの爪音ですぐ起きる。ところが、下まで降りてドアを開けてやっても、タケは出ていかない。
 おしっこしたいんじゃないのだ。ただ、「おかあさん、いるかな、かえってきたのはほんとかな」と確認したいだけなのだ。
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『私の秋、ポチの秋』(町田康)より
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みんなが嫌がるので私はドッグランなどで他の犬にマウントをすることはありません。私がマウントするのは主人だけです。なぜかというと、まあこいつだったら大丈夫だろう、と思うからなのですが、ポチはそのマウントを嫌がります。肩に爪が刺さって痛いからだそうです。ポチは叫び声を上げました。
「スピンク、痛い、スピンク、痛い」
「ワンワンワンワンワンワン(うるさい、黙れ)」
「痛い、痛い、マジ痛い、やめろ」
「ワンワンワン(じゃかましいんじゃ)」
 そんなことをやるうちポチは小癪な小技を繰り出してきました。肩にかかった私の前脚の肉球を指でブシュッと押しやがるのです。これをやられるとひとたまりもありません。
「あひゃーん」
 私は半笑いで逃げました。
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『チェロキー』(斉藤倫)より
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「おのれ目にモノ見せてくれるわー」
「歯にキヌ着せてくれるわー」
「手に職つけてくれるわー」
って、いたれりつくせりじゃないですか
不景気だなんだっていったってやっぱり豊かな時代なのですね
と捨て犬チェロキーは公園の水飲み場の前にうずくまったままいった
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『池田澄子十三句』(池田澄子)より
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じゃんけんで負けて蛍に生まれたの
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『永井陽子十三首』(永井陽子)より
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こころねのわろきうさぎは母うさぎの戒名などを考へてをり
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『うさと私(抄)』(高原英理)より
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「地味な兎ですが、ずっとつきあってください」
 誕生日に貰ったポストカードにはこう書かれていた。私は決意した。
 半月後、兎は私の右側に座っている。兎はよく寝る。ときどき起き出してはよく笑いよく泣く。

「何て呼べばいい?」
兎はひどく考え込む。私は言う。
「『うさ』はどう?」
「うれし」

 夜中に目が醒めると、隣に兎が寝ていた。嬉しかったが、眠いのでそのまま寝てしまった。

 夜中に目が醒めると、隣に兎がいなかった。悲しかったが、眠いのでそのまま寝てしまった。

 うさは「愛してる」と言わない。そのかわり、私の手をとって、「なかよし」と言う。

「うさ、もう、ダンゴムシ!」
 うさベッドに転がり込み、丸くなる。とても恥ずかしいことを思い出したとき。

 とても悲しそうにうさが泣いている
 理由はわからないが隣にいてあげる
 随分長い間泣いていたが
 ふと顔をあげてうさが言う
「うさぎはね」
「うん」
「ロバが好き」
「うん」

 いっぱいのうさうさ
 いっぱいのうさうさ
 いっぱいのうさうさ
 いっぱいのうさうさ
 いっぱいのうさうさ
 いっぱいのうさうさ
 いっぱいのうさうさ
 みきみきもいるよお
 いっぱいのうさうさ

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