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『SFマガジン2015年6月号 ハヤカワSF文庫総解説PART2』 [読書(SF)]

 隔月刊SFマガジン2015年6月号は、特集「ハヤカワSF文庫総解説」の分割掲載そのパート2として、501番から1000番までを紹介。

 また、読み切り短篇としては、引き続き円谷プロダクションとのコラボレーション企画として今回は酉島伝法、日本オリジナル短篇集が出版されたばかりのケン・リュウ、アーバンギャルドの松永天馬、それぞれの作品が掲載されました。


『神待ち』(松永天馬)
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 飾られたフィギュアが振動で雪崩れ落ちるように、コンクリートの筐体の上からポーズをとった少女たちが次々と飛び降りる。笑顔のままで、瞳孔に尖った涙を湛えながら、小さく果てる。小さく果てては、ネット上に細かな傷を遺していく。
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SFマガジン2015年6月号p.132

 神様の盗撮フィルム(俗にいうアカシックレコード)を二時間弱に編集して劇場用映画として公開するので、主演女優になってくれないか。カントクに声をかけられた少女たちは、神に選ばれるために次々と屋上から飛び降りて小さな染みになってゆく。

 「少女は死なず、ただ消費される」。アーバンギャルドの松永天馬、豪快少女小説その第四弾。単行本化はまだですか。


『痕の祀り』(酉島伝法)
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長い尻尾のある全体の印象からは、肉食恐竜を連想させるが、これまで現れた多様な形態の顕現体と同様に、骨格の構造はむしろ人間に近い。
 この、おおよそ百五十噸(トン)はあると言われる、未だどういう生き物なのかも定かではない極大の死骸を、ここから迅速に運び去らなければならないのだ。
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SFマガジン2015年6月号p.217

 万状顕現体と斉一顕現体の接触状況により照射された大量の絶対子、その審問効果に耐えながら特殊清掃業者「加賀特清会」は加功機を操縦する。巨大残留性有機汚染物質を回収するために。

 「ウルトラマンのスペシウム光線によって倒された怪獣の死体を後片付けする科学特捜隊の地味な苦労」というありふれた話が、この著者の手にかかるとまたもや酉島伝法汁まみれバイオ異形奇譚に。


『『輸送年報』より「長距離貨物輸送飛行船」(〈パシフィック・マンスリー〉誌二〇〇九年五月号掲載)』(ケン・リュウ、古沢嘉通訳)
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 ツェッペリンにはたくさんの空間がある、とわたしはぼんやり思い浮かべた。空気より軽いヘリウムで充たされたその空間がツェッペリンを浮かばせている。結婚というものも、たくさんのスペースがある。浮かばせておくのにいったいなにを詰めればいいのだろう?
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SFマガジン2015年6月号p.246

 航空機に比べはるかに燃料効率が良く二酸化炭素排出量が少ないため、今や長距離輸送の主役となっているツェッペリン飛行船。長距離貨物輸送飛行船、東風飛毛腿(フェイマオトイ)機に同乗し、中国甘粛省蘭州から米国ネバダ州ラスベガスまでの飛行体験を綴ったレポート。

 飛行船が輸送の主役となっている改変歴史世界を舞台に、シフト交替しながら飛行船を飛ばし続ける夫婦(野心的なアメリカ人である夫、彼が“買い取った”中国の貧しい農村出身の妻)の関係を扱った物語。リアルで胸踊る飛行船の描写が印象的ですが、話の展開はやはりウェットで感傷的な方向になります。


タグ:SFマガジン
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