SSブログ

『ロボット革命 なぜグーグルとアマゾンが投資するのか』(本田幸夫) [読書(サイエンス)]

--------
日本にもオンリーワンのとんがった技術がたくさんありますが、ロボットに限らず、それをどう使いこなすかが日本の課題なのです。技術で勝って商品化で負けるという「失われた20年」の日本の呪縛のひとつです。(中略)
「技術は日本企業のほうが勝っている。あんなものは使い物にならない」と高をくくっていると、欧米でイノベーションが起こり、ライフスタイルが変革された時には日本メーカーは太刀打ちができなくなります。その結果、欧米のメーカーの下請けとならざるをえず、利益を生まない事業構造になってしまうのです。
--------
新書版p.41、44

 優れた技術があるのに、どうしてライフスタイルを変えるようなイノベーションに繋げることが出来ないのか。日本のロボット産業の課題を指摘し、進むべき道を提言する一冊。新書版(祥伝社)出版は2014年12月です。


--------
日本では放射能で汚染された場所で活躍する多数のロボットが開発されていましたが、使い物になりませんでした。(中略)
 というのも、原発事故は起きないという安全神話が強く、実際に使える状態に整備されていなかったのです。
--------
新書版p.84


 まさに原発事故のために開発されたロボットが、いざというとき何の役にも立たなかった。日本におけるロボット産業の現状を象徴するような話です。

 この例に限らず、技術的に先行していながら実用化が遅れ、海外製品に先行されて利益を得られないままに終わる日本製品が多いのは、いったいなぜでしょうか。


--------
なぜ日本で発明された技術であるにもかかわらず、日本国内で最初に実用化がスタートできなかったのか。それは、完璧な技術である場合を除いて「事故が起きた時にどうするのか」というネガティブな意見に対抗できなかったからです。その結果、せっかく開発した独自技術、先端技術が海外に流出してしまって、オンリーワンのデファクトになれなかったのです。
「ロボット技術は使ってなんぼ」という発想が国民に共有されない限り、日本でロボットが普及することはないでしょう。
--------
新書版p.55

--------
 日本の場合、ロボットの政府調達がほとんどないので、ベンチャー企業が商品用のロボットを開発しても容易に売れません。開発したロボットを5年程度は政府や地方自治体などが購入するしくみを作らないかぎり、運転資金が続かず事業化は挫折する可能性が高いと思います。
--------
新書版p.54

--------
 一言で言えば、これまでのロボット開発が研究のための開発、論文を書くための開発に終始し、商品化を考えた開発、消費者のニーズを考えた開発ではなかったということに集約されるかもしれません。
--------
新書版p.119


 まず責任問題から考えるネガティブ思考の社会、政府による公的支援の不足、そして利用者不在のまま「研究のための開発」に邁進する専門家。なるほど、それではイノベーションどころか事業化も出来ないわけです。

 日本のロボット技術は凄い、世界最先端、さすが鉄腕アトムを生んだ国、などと自画自賛している間にも、グーグルは自動運転するロボットカーの実証を進め、またアマゾンはドローンによる荷物配達をテストしています。彼らは別に凄いロボットの開発を目指しているわけではなく、私たちのライフスタイルに革命を起こそうとしているのです。


--------
 グーグルやアマゾンは社会のなかでロボットを活用しはじめていますが、実証試験を行なうことで、現実の社会でロボットがどのように動作したのかなどのさまざまなデータや、ひやりとする事象がどのような条件で発生し、どう対応したのかというリスク管理のノウハウが蓄積されます。そのノウハウから、商品価値につながるバリューが生まれるのです。
 日本の場合、モノづくりに集中して資源が投入され、データ処理やデータベースで成功した事業はほとんどありません。
--------
新書版p.201

--------
 いずれにしても、アメリカでは「とりあえず使ってみよう」という実証試験の段階に入り、一般の人たちがロボットカーを利用する際にどのように自動運転するか、AIの判断基準を決めようという議論が行われています。
 まさにイノベーションの具体的な事例と言えますが、これまでカラオケとウォークマン以外に、ライフスタイルを大きく変えるこれといったイノベーションを起こしたことがない日本では、ロボットカーの導入について議論のための議論をしているのが実情です。
--------
新書版p.36


 では、これから日本のロボット産業はどのような方向に進むべきなのでしょうか。著者は次のように提言しています。


--------
 専門家がいくらロボットを開発しても、ロボット革命は起きません。ロボット革命を成功させる鍵は、一般市民の意見を聞きながら、日本の社会でロボットを使ったら便利になるような場面と、そのソリューションを見つけることにあると、私は考えています。(中略)
 自動車のように1機種で100万台も生産・販売することができる単機能のロボットが市場に出てくることは、向こう数十年はないと思います。そうではなくて、単機能のロボットを組み合わせてソリューションを提供するのです。
--------
新書版p.201、202

--------
 ロボット革命を実現させるためには、単機能のロボットを販売することにこだわるのではなく、利用者の利便性を考えたビジネスモデルを作らないといけません。そうやって町丸ごとのシステムを輸出できれば、ロボット革命における出口戦略としての大きな輸出産業のひとつになると思います。
--------
新書版p.206

--------
 私自身は、第三の道を歩むのがよいと考えています。日本は超高齢社会に役立つことに特化してロボットを開発し、事業化していくのです。(中略)
ロボット技術を活用することで、超高齢国の日本は老若男女すべての人たちが元気で生き生き暮らしている。これこそが日本が世界に向けて発信するイノベーション、ロボット革命なのです。これを実現するためにも、日本人はこれまでの生き方のパラダイムを転換する決断をしなければいけません。
--------
新書版p.196、197


 ロボットそのものではなく、ロボットを組み合わせることで「町ひとつ丸ごとのシステム」を超高齢社会に対するソリューションとして提供する、というわけです。確かにそれが実現できれば、「ロボット革命」と呼ぶに相応しいものになるでしょう。そして、世界中のいわゆる先進国で、程度はともあれ高齢化問題は共通の課題となっていますから、大きな市場があることは間違いありません。

 果たして日本企業は、ロボット革命を実現して世界をリードする立場につくことが出来るのでしょうか。それとも、またもや「日本の技術は世界一、あの海外製品もこの海外製品も、部品の大半は日本製」と胸をはりながら、低い利益率にあえぐ下請けであり続けるのでしょうか。

 というわけで、ロボット技術そのものというより、その事業化やビジネスモデルに焦点を当てて書かれた本です。ロボット産業に興味がある方はもちろん、技術志向のメーカーに勤めている方々にお勧めします。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0