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『双花町についてあなたが知り得るいくつかのことがら vol.3』(川口晴美:詩、芦田みゆき:写真、小宮山裕:デザイン) [読書(小説・詩)]

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この町で
  何か起こるというのですか
 いったい何があるというのでしょう
            この双花町に
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「詮索」より


 どことも知れぬ不可解な場所、双花町を訪れた「あなた」は、いつしか迷宮に足を踏み入れていることに気づく。長篇ミステリー詩と写真の幻想的コラボレーション、そのパート3。Kindle版(00-Planning Lab.)配信は2015年1月です。

 どこか不穏で心をざわめかせる写真と、幻想ミステリーのような謎めいた雰囲気の長編詩。二つの創作物が電子媒体の上で重なり合い、読者を否応なく双花町という名の迷宮へと引き込んでゆきます。


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あなたはそれを確かに見た。彼女とそう変わらない年頃の少女の死体。あなたは未だに少女の名も、少女がどのように殺されたのかも、知らない。おそらくこれからも知ることはない。
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「午睡の夢」より


 何者かに殺害され、つるされていた少女の謎。

 どこかに閉じ込められている少年の叫び。

 何かを埋めたらしい双子のサヤコとサヨコ。

 そして、あらゆるシーンに共通して登場する、向精神薬物らしき、秘密めいた銀色の錠剤。それは川沿いにある製薬工場で作られているのでしょうか。

 謎は解明されるどころか、いっそう混迷を深めてゆきます。なにげない風景や建物が写っているだけなのに、不穏な気配を濃厚に漂わせている写真を背景に、詩の言葉が、忍び寄るような恐怖をもたらします。


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だから魚臭くなるの。だから裏庭に埋めなければならない。いいえ。裏の空地に。埋められなければならない。鱗も頭も内臓も骨も血も。誰にも見つからずに。夜。そうです風の強い晩でした。シャベルはサヤコが担ぎました。ええサヨコではなくサヤコが。
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「原因」より


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僕をここから出して。お父さん。逃がしてください。
お父さん。おねがい。
  (中略)
こわい。はやくはやくはやくお父さん助けに来てお願い。
でも、もしかして、ねぇ、どうしよう、僕の手紙は、本当にお父さんに届いているの?
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「紙を折る」「紙を返す」より


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ドアを開けるとこぢんまりした浴槽は縁まで銀色の粒に満たされていて、そこに死体のように浸かっていた身体があなたに向かってゆっくりと目を開く。立ち上がった裸身は魚のようにびっしりと鱗に覆われ……いや、そう見えたのは銀色の錠剤が肌に隙間なく付着しているせいだ。
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「午睡の夢」より


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         こわいですか
ご安心なさい
    双花町があなたを隠すでしょう

 もう

    あなたは
  どこにも
見つからない

こわいですか
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「詮索」より


タグ:川口晴美
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