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『MU』(カニエ・ナハ) [読書(小説・詩)]

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みずうみが
どうしようもなく病んで
いちめん青いビニールシートで覆われている
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『無音花火』より


 まるで怪談のような、読者を不安な雰囲気で取り囲んでくる詩集。単行本出版は2014年11月です。

 タイトルから「無」や「夢」を連想する方が多いとは思いますが、個人的には、オカルト雑誌を連想してしまいます。表紙も、海外の古めかしい心霊写真あるいは霊媒が吐き出したエクトプラズムに見えたり。

 そういうわけで、ページをめくる前からオカルトや怪談の気配が濃厚に感じられるのですが、読んでみると、その予感は当たっていました。やっぱり。


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あのマンションの4階に
私の過去がいまも棲んでて
じきに現在の私が未来からの死者として
呼び鈴に指を置いている
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『赤羽幽霊』より


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(ねえ、ちょっと、起きて
 キッチンの、あのカーテンの向こうに
 だれか、なにか、いるみたい
 ちょっと、みてきてくれない・・・?)
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『小夜小話』より


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(河原の童ら、
(あの子らなんで
(しゃがんで石噛んでるんだろ?
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『地獄紀行』より


 どういうわけか、ぞわっと、怖い感触が、きます。作品によっては、ホラー小説の出だしのような印象を与えるものも。


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それはクリスマスの朝だった。
机に突伏して居眠りをするように死んでいた彼の
恋人はモデルでからだじゅうに刺青があったという。
(彼自身にはなかったという。)
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『山火事記』より


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螺旋階段の途切れた
断崖から
牛たちがぼろぼろと落下していく
赤から青へと
その毛色を変えながら
十一月二十五日
うっかりと
ひとの生首を見てしまう(画面の中で)
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『永劫回避』より


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白色恐怖症を重度に患った伯父が入院している
私は新幹線に乗ってはるばる、
山間のO町の病院に見舞いに行く晴れた日曜の
道すがら、
見舞いの品になにをもっていくか思い悩む
あるいはなにももっていかないほうが良いのか…
しかし、なにももっていかないことが白を連想させないだろうか
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『白不在音』より


 ある種の(不明瞭だが決して良いものとは思えない)予兆をはらんだ言葉が、やがてその意味を点滅させ、次第に韻律ばかりになってゆくところは、思わず息を飲むような迫力。


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現は器
彼岸へと
打ちあげられた
無数の寝台の
身体の
しがみついていた、古い
怪我たちばかりが彼らの我を明かしていた。
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『西瓜協定』より


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月見草(または我々草。すみずみまで。水。したたらせては、したためる(あなたの名前、
記述する。三日三晩。泣きじゃくる。孔雀。こおろぎ。白鳥。かわせみ。ほろほろ鳥。
黄泉。湧き出ずる(多、他、譚、多々、誕、多々、爛。(多、他、嘆。唯、
孔雀。こおろぎ。白鳥。かわせみ。ほろほろ鳥が。パヴァーヌを舞っている。水。
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『受動噴水』より


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あの子(こ)がだいじにしていたお琴(こと)
ささらもさらに喰いあらし
カササギが背中(せな)に祖霊をまたがらし
愛(お)しみ泣きだよ虫送り
ちろるちろっそとささやんで
敬礼、ーそして痙攣!
ちろるちろっそと
またまた雨がやってくる
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『迢迢皎皎』より


 一人で読んでいる途中、何だか怖くなってきて、思わずカバンにしまい込んでしまい、翌朝の通勤電車で続きを読んだという次第。こういう、他人に伝えることが出来ない怖さを、さらりと表現してしまう詩というのは、やっぱり怖いものなのだなあと、そう思いました。


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