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『書き下ろし日本SFコレクション NOVA+ バベル』(大森望:編、月村了衛、宮内悠介) [読書(SF)]

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 焼肉屋・大将で思いついた日本SF大賞特別賞受賞記念企画だから、タイトルは『日本SF大将』で----とか冗談を飛ばしていたら、河出書房新社の担当編集者・伊藤靖氏がほんとにその仮題で企画会議を通してしまい、某ネット書店には実際に『日本SF大将 書き下ろし日本SFコレクション』のタイトルで刊行予告が掲載されるという椿事が出来。とりさん、どうもすみませんでした
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文庫版p.505

 日本SF大賞を受賞した書き下ろし日本SFコレクション『NOVA』が、ついに帰ってきた。新鋭とベテランが勝負をかける8篇を収録。文庫版(河出書房新社)出版は2014年10月です。


『戦闘員』(宮部みゆき)
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 これを指して〈取り付けられている〉と表現するのは違うような気がする。このくっつき方、この存在感は何かに似ている。
 ちょっと考えて思い当たった。蜂の巣だ。
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文庫版p.

 身の回りのあちこちに取り付けられ、増えてゆく一方の監視カメラ。もしも私たちをじっと見張っている「それ」が、得体の知れない生物の擬態だったとしたら……。じんわりと嫌な気持ちになるアイデアを発展させた侵略SF。


『機龍警察 化生』(月村了衛)
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「あと五年、そう思っていたのが甘かったんだ。〈そのとき〉はもっと早くやってくる。(中略)我々は龍機兵のアドバンテージをできるだけ維持しなければならない。〈そのとき〉のためにね」
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文庫版p.108

 自爆条項さえ辞さないほどに周到に守られた龍機兵(ドラグーン)の秘密。事件はそこにつながっていた。刻々と迫りくる終幕を前に、物語は緊迫感を増してゆく……。凶悪化の一途をたどる機甲兵装(軍用パワードスーツ)犯罪に対抗する特捜部の活躍を描く人気シリーズ「機龍警察」の最新作。


『ノー・パラドクス』(藤井太洋)
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 ワームホールの時間旅行では、自分がいる時空の過去を変えることはできないし蝶の羽ばたき(バタフライ・エフェクト)のせいで、都合の良い未来を作ることもできない。並行宇宙での出来事になってしまうからね。
 でも、ひとつだけ方法があった。
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文庫版p.177

 量子ワームホールを利用したタイムトラベルが一般化し、様々な時代出身の人間が混在している未来。時間旅行会社の支配人が巻き込まれた奇妙な殺人事件は、遥か遠未来で行われる、ある作戦に関係していた。様々なアイデアを遠慮なくぶち込んで振り回し、読者に目眩をもらたす時間SF。


『スペース珊瑚礁』(宮内悠介)
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(聞こえますか……聞こえますか……いま……あなたの心に……直接……呼びかけています……整形外科へ行くのです……いいですか……整形外科へ……行くのです……)
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文庫版p.188、189

 自己複製型ナノマシンが暴走して惑星まるごと消滅の危機に陥っても、おなじみ新星金融の二人は借金の取り立てに行く。スペース金融道シリーズ第4弾。


『第五の地平』(野崎まど)
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 故郷モンゴルはすでに7auの彼方であった。今チンギスが立っている場所はモンゴル族の勢力の前線。木星の軌道を越えて、土星周回軌道へと向かう道程の中ほどである。
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文庫版p.245

 時は13世紀初頭。太陽系をほぼ征服したモンゴル帝国は、さらなる広大な版図を求めていた。チンギス・ハーンは「万物の根源は草の根である」という《超根理論》が予言する隠された次元、すなわち余剰次元を探索すべく、宿敵に立ち向かう。

 双方が円を描いて馬を走らせ、それぞれ光速の99.999999パーセントまで加速した上で、一騎討ちで決着をつける。激突の刹那に生ずる膨大な活力を集中することで、極微領域に隠れている余剰空間を観測しようというのであった。並外れたスケールでおくる歴史小説。


『奏で手のヌフレツン』(酉島伝法)
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 百四十ある肢は、太陽の生得部位に見えるが、どれも横に七列、縦に十列並んだ足身聖たちの脚だ。どの聖も、太陽の内裏に胸元あたりまで埋もれて癒着しており、心窩近くまで切れ上がった長い脚は、駈坊のごとく表皮が硬化していた。
「黒点が現れている」
 ルソミミが溜息まじりに呟く。
 太陽の頂上部に、生乾きの深い傷口を思わせる波打つ穴が開いていた。
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文庫版p.290

 凹面上の大地。そこに作られた黄道を、脚をいっぱい生やした太陽がずんずん歩いてくる。こうして朝がやって来る。画数の多い漢字と造語であふれた独特の文体と、横溢する異形生物イメージで読者を圧倒する作者による神話的物語。


『バベル』(長谷敏司)
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システムはまるでバベル以前の言語のようだ。意味を語らず、そこから意味を引き出そうとしない間は、一つの言語のもとに皆が力を合わせていられる。高いところへ届くものを築ける。
 だが、量に還元できない意味が混入した途端、彼らは統一を失う。
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文庫版p.415

 ビッグデータ解析により社会動向や流行を予測する高度なシステムを作り上げ、イスラーム世界における大きなビジネスチャンスを手にした若者。しかし、その行く手に伝統的文化と社会慣習が立ちはだかる。解析システムの矛先を世界全体に向けたとき、そこに立ち現れたのはバベルの塔からの視界だった。

 様々なレベルで暗喩を重層的に用いながら、現実の社会問題との葛藤に苦しみつつも前進してゆこうと苦闘する若者の姿を描く、さすが表題作に選ばれただけのことはある傑作中篇。


『Φ』(円城塔)
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 わたしは危機について語ろうとしている。あまりにも単純であるがゆえに長く気づかれることのなかったこの宇宙の危機についてだ。(中略)
 わたしの概算によると今この瞬間、この宇宙は百三十八文字から形成されており、これは先頃から単調に継続してきた縮小の結果であると考えられる。それぞれの段落は一文字ずつ短くなっていくことになっているらしく、我々に残された段落は、この段落を含めてあと百三十八しかないという計算になる。
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文庫版p.483

 段落が進む毎に、段落に含まれる文字数が一文字ずつ減ってゆく。この法則に気づいた語り手は、小説の終わりが迫っていることを悟るのだった。アイデアと形式と記述内容が一体化した自己言及的短篇。


[掲載作品]

『戦闘員』(宮部みゆき)
『機龍警察 化生』(月村了衛)
『ノー・パラドクス』(藤井太洋)
『スペース珊瑚礁』(宮内悠介)
『第五の地平』(野崎まど)
『奏で手のヌフレツン』(酉島伝法)
『バベル』(長谷敏司)
『Φ』(円城塔)


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