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『見知らぬ国のスケッチ アライバルの世界』(ショーン・タン、小林美幸:訳) [読書(小説・詩)]

 「この本では『アライバル』の小さな世界がどのように築かれたかをご紹介している。製作初期段階のさまざまなアイディア、コンセプトの発展過程、完成図の製作----そういったものから、より深く『アライバル』を知っていただけるととても嬉しい。単なるスケッチ集としてご覧いただいても、楽しめるのではないだろうか」(単行本p.6)

 誰も見たことがない未知の国に移民してきた男が体験する驚異を不思議なイラストで表現した絵本『アライバル』。この名作はどのようにして創られたのか。多数の素材、メモ、下書き、途中経過、そしてエッセイを通じて、著者自身がその秘密の一端を明らかにしてくれる一冊。単行本(河出書房新社)出版は、2014年3月です。

 全世界で大きな話題となったショーン・タンの『アライバル』。私も魅了された一人です。原書読了時の紹介はこちら。

  2011年05月13日の日記:『アライバル』
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2011-05-13

 なお、その後、日本版が出版されました。といっても言葉による説明が一切ない絵本なので、日本語化されているのはタイトルと奥付くらいのもの。

 「僕は『アライバル』を水面下の氷山の存在を感じさせない、もうひとつの世界で発見された古いアルバムのような作品にしたいと思っていた。そして、余計な説明がないほうが、いっそう興味深い作品になるのではないかと考えた。つまり、読者に提示されるのは、不思議なイラストの数々と、どこかわからない風景のなかの声を持たないキャラクターだけ、というわけだ」(単行本p.5)

 様々な人物、客船、新世界の風景、不思議な生き物、さらには小道具や文字、記号に至るまで、本書は『アライバル』に登場した様々なもののラフスケッチやメモ、素材などを見せてくれる資料集です。その膨大な量には驚きを禁じ得ません。

 しかも、一つ一つの素材やスケッチが独自の魅力を持っている、というか著者のいうように、『アライバル』と切り話してもスケッチ集、イラスト集として充分に楽しめます。

 挿入されているエッセイでは、製作過程を詳しく説明してくれたりします。

 「最も重要な中期段階には、全シーンをつなげて“ダミー”を三冊製作した。この段階で、各ページの内容が暫定的に決まった。さらには、人々がイラストだけで綴られた文章をどのように“読む”のか検証することもできた。余白に書き込んだメモは、あとで詳細なイラストを描くときに“追加の脚本”の役割を果たしてくれる、ト書きのようなものだ」(単行本p.26)

 「主人公の男性には、便宜上“アキ”という名前を使っていた。物語を最大限に伝えるため、どのページも非常にシンプルで整然としたコマ割り----ゆっくり読んでもらえるように----にし、人間にも動物にも明快でわかりやすい動作をさせた」(単行本P.26)

 「随所に使った筆記体風の文字はまったく意味を成さないが、本物の文字のように見えてほしいと思っている。はさみとテープを使い、ローマ字とアラビア数字に外科手術を施して再構築したものだ」(単行本p.31)

 「主人公が“新しい国”で知り合った家族と夕食を楽しむシーン。(中略)僕は三人の友人を招き、彼らに協力してもらって、これと似たようなシーンをビデオカメラで撮影した。それから静止画像をコンピューターに取り込んで、さまざまな要素を組み立て直して構図を試作し、その途中で動物やそのほかの細々としたものを書き加えていった」(単行本p.43)

 個人的には、あの「ネズミのようにも、犬のようにも、イルカのようにも、サメのようにすら見える」(単行本p.35)不思議なコンパニオン・アニマルのモデル、粘土模型の写真、そして様々なイラストがびっしり載っているページがお気に入り。

 というわけで、『アライバル』資料本としても良いし、単にショーン・タンのイラスト集としても大いに楽しめる一冊です。


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