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『SFマガジン2014年3月号 2013年度英米SF受賞作特集』(深堀骨) [読書(SF)]

 SFマガジン2014年3月号は、2013年度英米SF受賞作特集ということで、ヒューゴー賞、ネビュラ賞、ローカス賞などの受賞作品を翻訳掲載してくれました。また、某文芸誌の話題に便乗して、深堀骨の新作(実は塩漬けにされていた旧作らしい)も掲載してくれました。


『スシになろうとした女』(パット・キャディガン)

 「わたしたちはスシになるべく生まれついたが、スシに生まれついたわけではない。誰もが最初は二足歩行者で、二分法思考になじみ、無知の中に生きていた」(SFマガジン2014年3月号p.29)

 人類が外惑星圏にまで進出した未来。生体改造により、タコ、フグ、カニ、オウムガイなど様々な形態をとることで宇宙環境に適応した人々は、「スシ」と呼ばれていた。木星への彗星衝突という世紀の天体ショーが近づいた頃、木星圏のスシたちも準備作業に追われていたが、作業中に仲間の羽毛なし二足歩行者(伝統的人類)が負傷してしまう。治療中に彼女は自分もスシになると言い出すのだが……。

 外見を多種多様に変えた宇宙居住者たちが生み出した文化と、自分たちと異なる外見や考え方に対して不寛容な人類との間で生ずる文化摩擦と差別を扱ったシリアスな作品なんですが、なんというかこう、「スシ」を始めとするネーミングと、語り手(タコ型)がやたらと触手を強調するおかげで、どうも笑ってしまう触手モノ。


『没入』(アリエット・ドボダール)

 「その文化に生まれつかないかぎり、銀河人のように考えることなどできはしない。 あるいはそこに何年も、無感覚になるまで薬浸けのようにして浸りきってしまわないかぎり」(SFマガジン2014年3月号p.43)

 外見や振る舞いを異文化に適合させる「没入装置」が普及した未来。軌道ステーションに住む地球人は、自分たちが基準だと信じて疑うことのない傲慢な銀河人観光客のために、没入装置を常時着用していなければならなかった。しかし、没入装置に依存するあまり、自らの文化的アイデンティティを喪失して病んでしまう者もいるのだった。

 異文化間の交流と共存を支援するために開発された没入装置が、文化摩擦の存在そのものを隠蔽して、少数文化を圧殺してゆく。誰もが白人、西洋人の文化に合わせることを強いられるグローバリゼーションの実態を風刺した作品。


『九万頭の馬』(ショーン・マクマレン)

 「もし1899年にこの話をしていたら、世界の運命はどうなっていただろう? 大英帝国は月にまで領土を広げていただろうか?」(SFマガジン2014年3月号p.73)

 19世紀末の英国。ある貴族から、息子が何やら極秘に開発しているという「新型機関車」について探ってほしいと依頼された天才美人スパイ。無学なメイドに化けて工場に潜入した彼女が見つけたのは、ケロシンと液体酸素を混合させた液体燃料を爆発的に燃焼させ、短時間に9万馬力もの推力を出す驚異のエンジンだった。新型機関車の正体とは……。

 数学の天才たる美しい女性スパイが語る恋と冒険と驚異の物語。「19世紀末の英国を舞台とした、驚くべき発明をめぐる奇譚」という王道的中篇です。


『廿日鼢と人間』(深堀骨)

 「店内を抜けて厨房を抜けて裏口を抜けて路地を抜けて通りを抜けて藪を抜けて地面を抜けて土を抜けて泥を抜けて闇を抜けて底が抜けて抜けて抜けて抜けた先は地底王国だった。念の為繰り返す。地底王国だった」(SFマガジン2014年3月号p.254)

 廿日鼢(ハツカモグラ)を見つけて大金持ちにならんと欲した吾蠅(ワガハイ)は、逆にきやつらにつかまり地底王国で本田博太郎(二代目)にされてしまう。問答無用の深堀骨としか言いようがない本田博太郎SFの傑作。

 編集部による解説もノリノリ。

 「〈群像〉2014年2月号「変愛小説集」への新作「逆毛のトメ」発表と、深堀骨プチブームの機運に便乗」(SFマガジン2014年3月号p.249)

 「「あまちゃん」の大ヒットを10年前に予言していた名著『アマチャ・ズルチャ』」(SFマガジン2014年3月号p.249)

 なお、深堀骨プチブームのきっかけとなった『逆毛のトメ』を含む「変愛小説集」の紹介については、こちら。

  2014年01月09日の日記:
  『変愛小説集(「群像」2014年2月号掲載)』(岸本佐知子:編)
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2014-01-09


[掲載作品]

『スシになろうとした女』(パット・キャディガン)
『没入』(アリエット・ドボダール)
『九万頭の馬』(ショーン・マクマレン)
『廿日鼢と人間』(深堀骨)


タグ:SFマガジン
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