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『いま、世界で読まれている105冊 2013』(テン・ブックス編) [読書(教養)]

 「本書はフラットになったと言われているこの世界を、書物、とりわけ文学という制限された枠からあえて覗いてみる試みである。諸言語に通じ、その言葉、そして土地や人を見つめてこられた研究者、翻訳家、ジャーナリストの視点を借りて、世界を眺めようとした」(単行本p.268)

 北朝鮮からツバルまで、グルジア語からエスペラントまで。世界中の様々な場所で書かれ読まれている書物を、専門家が紹介してくれる一冊。単行本(テン・ブックス)出版は、2013年12月です。

 『日本語に生まれて 世界の本屋さんで考えたこと』(中村和恵)がひどく刺激的だったせいで、そもそも海外ではどのような本が書かれ読まれているのだろうかという興味がふつふつとわいてきて、まずはカタログ的な本書を手にとってみました。

 世界各国でいま読まれている書物105冊を、その地域や文化に詳しい研究者や翻訳家の方々が紹介してくれます。取り上げられている国は。

 ロシア、韓国、中国、新疆ウイグル自治区、カザフスタン、ベトナム、タイ、インドネシア、ブータン、インド、イラン、イラク、グルジア、トルコ、レバノン、イスラエル、フィンランド、スウェーデン、英国、アイルランド、リトアニア、ポーランド、ウクライナ、ルーマニア、スロヴァキア、チェコ、ドイツ、フランス、ベルギー、オランダ、スペイン、ポルトガル、イタリア、クロアチア、セルビア、アルバニア、モロッコ、アルジェリア、エジプト、エチオピア、タンザニア、南アフリカ、カナダ、米国、メキシコ、ベリーズ、キューバ、ジャマイカ、プエルト・リコ、グアドループ、トリニダード・トバゴ、コロンビア、ブラジル、エクアドル、チリ、ペルー、ボリビア、アルゼンチン、オーストラリア、ニュージーランド、ツバル、エスペラント(言語)。

 圧倒されるほど幅広い文化と言語が、ぎっしり詰め込まれています。

 紹介されている本には、それぞれ参照番号が振られ、国名とタイトル、著者名と選者名、書影と発行年などの諸データ(ISBN含む)、一部抜粋翻訳(選者による)が、1ページにコンパクトにまとめられています。そして、選者による内容紹介、選者のプロフィールが続きます。

 選ばれている本は、いわゆる文学作品が多いのですが、なかには韓国で摘発された北朝鮮のスパイが妻に書いた書簡集とか、「一年間おならをがまんした牛がおならをしたら宇宙まで飛ぶの?」という子供の質問に専門家が答えるなぜなに本とか、初心者のための聖書入門書とか、ネルソン・マンデラ氏の公式引用集とか、コロンビアの麻薬王の評伝だとか、もう千差万別。

 イスラエルに住むアラブ人が母語ではないヘブライ語で書いた自伝だとか、スウェーデンの移民が「社会への反抗として話す言語」であるリンケビュー・スウェーデン語で書かれた本とか、聖書を除きツバル語で出版された初めての本とか、エスペラント文学史上初の長編作品かも知れない本とか、使われている言語も多種多様です。

 日本が登場する話もあり、私たちが世界からどのようなイメージで見られているかがストレートに伝わってきて、興味深いものがあります。

 例えば、アルゼンチンの小説はこう。友人に冗談で「お前のチンポくわえてやるよ」と言った男に、そばにいた日系人が「名誉にかけて、言ったことは守らねばならぬ」と言い出し、カラテで威嚇。止めに入ったポーランド人ボクサーをカラテの必殺技で一撃で倒し、「さあ、彼のチンポをくわえるのだ」と、あくまで名誉と真実をつらぬく武士道精神。

 ブラジルの小説。グルメクラブに現れた謎の料理人、彼は日本のクシモトにあるという「ふぐ調理師を養成する秘密結社」で修行した男で、「食べた者は30パーセントの確率で死亡する」という料理の奥義を会得していた。そのため彼の料理を食べると十人に三人は死亡するが、しかしその味は絶品。さあ、命がけで食うべきか、食わざるべきか。グルメたちの葛藤と苦悩が始まった……。

 日本って本当に便利なネタなんだなあ。

 現代を生きる人々の姿を瑞々しい筆致で描いた作品、政治状況や社会状況を鋭く風刺した作品、純文学作品、詩歌、古典、戯曲など、紹介されているのは真面目な作品の方が多いのですが、個人的な好みとして、どうしてもこう、変な話、ぶっとんだ話、わけのわからない話、そういうのが印象に残ってしまうのです。例えば。

 新聞を読むたびに「左傾化」してゆく男が横になって治そうとするとか(ロシア)、偉大なる金正恩さんが父親の霊に向かって「敵どもに無慈悲な火の雨を降らせてやりますよ」と力強く語るとか(北朝鮮)、この地球は偽物であり本物の鏡映に過ぎないという妄想にとらわれた女性とか(英国)、地球人のサイズが立っているときも横になっているときも変わらないという発見に驚愕する宇宙人とか(スペイン)、ふたりの結合双生児がそれぞれ一人称で語る自叙伝だとか(カナダ)。

 世界の文化的多様性をまのあたりにして感嘆する他はない素敵なガイドブックです。タイトルに2013とあるので、これから毎年出るのでしょうか。期待したいと思います。

 余談になりますが、本書で紹介されているなかで個人的に最も興奮した一冊について。

 「グレッグ・イーガンや伊東計劃〔原文ママ〕も真っ青の本格SF」と選者が太鼓判を押す、中国は劉慈欣の『三体』。内容紹介によると。

 「物理学など存在しない。今までも、これからも」という謎の言葉を残して科学者たちが次々と自殺するという事件が発生。そして主人公の視界に表示されるようになった「カウントダウン」時刻。その背後には、地球侵略を企む異星人の陰謀が隠されていた!

 ということらしく、うはあ、これは期待できるというか、読みてえ。

 ちなみにこの作品、選者が講師をつとめている「NHK レベルアップ中国語」でも中国語の学習教材として取り上げられています。あわててNHKテキストを確認しましたが、抜粋訳(原文対訳)に加えて、全体ストーリー紹介、登場する設定やアイデアについての解説など、丁寧に書かれています。SF好きなら要チェックですよ。物理法則の捏造とか、バカSFすれすれの大ネタ炸裂で面白そう。

 なお、ウィキペディア記事『三体』には、かなり詳しい内容紹介が書かれていますので、興味がある方はそちらをどうぞ。

 読者の熱烈な支持を受けたこの作品、英語、韓国語、日本語への翻訳が進められており、さらにハリウッドから映画化の打診もあるとのこと。日本語版の出版が楽しみです。


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