SSブログ

『SFマガジン2014年2月号 日本作家特集』 [読書(SF)]

 SFマガジン2014年2月号は、恒例の日本作家特集ということで、注目の新鋭作家たちによる短篇競作を掲載してくれました。また、映画公開に合わせ『エンダーのゲーム』シリーズの短篇、およびアイリーン・ガン&マイクル・スワンウィック共作によるクリスマス・ファンタジー短篇も掲載されました。

『ナスターシャの遍歴』(扇智史)

 「つぎはぎででたらめで、思いつきのままにつむがれる荒唐無稽な物語。けれど、私たちにとってはそれがほんとうのナスターシャの人生だったし、その物語の中でナスターシャは活き活きと生を満喫していた」(SFマガジン2014年2月号p.28)

 キャリアウーマンである語り手が散歩するたびに現れる謎めいた女性、ナスターシャ。彼女が語る不思議な物語に惹きつけられる語り手だが、どうも何かがおかしい。やがて、語り手の記憶と現実認識は大きく混乱してゆく。

 人形怪談なのか、仮想現実テーマなのか、それともロボットSFなのか、微妙に分からないまま進行する話ですが、ナスターシャが語る物語の魅力で全体をきれいにまとめてしまいます。

『亡霊と天使のビート』(オキシタケヒコ)

 「毎晩のように酷くうなされ、原因不明の病に伏せる九歳の少年と、その彼が悪夢に苦しむ寝室で、虚空からわき出してくるという死者の囀り----しかもその声は、耳には聞こえるのに、どうやっても録音することができないという」(SFマガジン2014年2月号p.37)

 幽霊屋敷の一室、真夜中に聞こえる囁き声。おなじみ武佐音研の紅一点、カリンが「人間には聞こえるのに録音はできない声」という怪奇現象に挑む。というかマジ泣きして鼻水たらしてて子供になぐさめられる。

 SFマガジン2013年2月号に掲載された『エコーの中でもう一度』に続く音響工学SFミステリ。技術的な謎解き自体にはさほど意外性はないものの、そこから先に二段三段と真相が明らかにされてゆく展開が見事。

『自撮者たち』(松永天馬)

 「自撮したい。他撮したい。死にたい。女の子だもん。恋もしたいしキスもしたい。お金も欲しいしセックスだってしたい。あと死にたい」(SFマガジン2014年2月号p.83)

 自撮グループの頂点を目指して、殺撮会で殺し合う美少女アイドルたち。72億の人類(オタ)のおにんぎょうである少女たちがTLに血と脳漿ぶちまけつつ他撮される近未来(そうですか?)の芸能界。ツインテール千切れ、金玉爆散飛翔。わたしとセックスしたい皆さん、許して下さい。代わりに一曲歌います。聴いて下さい! 『偶像崇拝』!

 なんというか迷いというものを感じさせない松永天馬さん(アーバンギャルド)による豪快な少女小説、シリーズ(なんだろうなやはり)第三弾。もう三作目だし、近いうちに書き下ろし一篇を加えて単行本化されますよね、きっと。

『カケルの世界』(森田季節)

 「説明が唐突だけど、よくある展開なんすかね。どこかで異能力バトルに舵を切らないといけないわけだし」(SFマガジン2014年2月号p.170)

 中央で上下に真っ二つに分かれたページ。上段ではフラグ立ちまくる異色の学園ファンタジーが展開。一方、下段では・・・。上も下もとにかく中二病世界観にまみれた技巧的短篇。解説にもある通り、「先に上段を全部読んでから下段を読むと、よりわかりやすいかもしれません」(SFマガジン2014年2月号p.35)ということで、この読み方をお勧めします。

『かわいい子』(オースン・スコット・カード)

 「おばあちゃんがボニートを見ながらため息をついて、「おまえも大きくなったら“男”になっちまうんだからねえ」といったとき、パズルの最後のピースがすっぽりおさまった。まるで、男が汚い言葉であるかのようだった。「男には名誉がないんだ」」(SFマガジン2014年2月号p.232)

 エンダーと敵対した少年、ボンソー・マドリッド。彼はどのような幼少期を過ごし、なぜバトル・スクールに入ったのか。『エンダーのゲーム』の脇役に焦点を当てたシリーズ番外篇的な短篇。

『ウィンター・ツリーを登る汽車』(アイリーン・ガン&マイクル・スワンウィック)

 「恐ろしいほどうつろな感じがサーシャを苦しめた。何か大事なものが消えていると、サーシャは思った。何かが恐ろしいほどひどくまちがっている。 でも、何が? クリスマスの日は永遠に続くかに思えた」(SFマガジン2014年2月号p.254)

 クリスマスの夜、鏡の向こうから邪悪なエルフたちがやってきて両親を殺し、弟を誘拐してしまった。サーシャは、なぜかしゃべるようになった愛犬チェスタトンに導かれ、弟を取り戻すべくクリスマス・ツリーの頂点を目指す。おもちゃの汽車に乗って。

 クリスマスの夜の冒険。どうせ最後は子供の夢オチだろ、などと油断していると手痛いしっぺ返しをくらいます。取り返しがつかない人生を、そういうものとして受け入れて生きて行くことをテーマにした傑作ダーク・ファンタジー。

[掲載作品]

『ナスターシャの遍歴』(扇智史)
『亡霊と天使のビート』(オキシタケヒコ)
『自撮者たち』(松永天馬)
『カケルの世界』(森田季節)
『かわいい子』(オースン・スコット・カード)
『ウィンター・ツリーを登る汽車』(アイリーン・ガン&マイクル・スワンウィック)


タグ:SFマガジン
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0