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『眠りの森の美女』(マシュー・ボーン振付、ニュー・アドベンチャーズ) [ダンス]

 2013年12月16日のNHK-BS 「プレミアムシアター」では、2013年5月10日にブリストル・ヒポドローム劇場(バーミンガム)で行われた、ニュー・アドベンチャーズ公演、マシュー・ボーンの『眠りの森の美女』の全幕舞台映像を放映してくれました。

 マシュー・ボーン振付作品というと、現代的解釈による古典バレエの改作が有名です。個人的には、男性ダンサーたちが格闘技のように力強く白鳥を踊る『白鳥の湖』を市販映像で観て、そのかっこ良さにシビれたのが忘れがたい思い出となっています。後に、孤児院が舞台となる『くるみ割り人形』を来日公演で観て、こちらも気に入りました。

 となると、いわゆるチャイコフスキー三大バレエの残り一つ、『眠れる森の美女』もマシュー・ボーン版があるかしらんと思って、市販映像を探したものの見つからず、映像化されてないだけだろうか、それとも出演者が多すぎるから製作を断念したのだろうか、などと悩んだのも今は良い思い出。

 今回放映されたマシュー・ボーン版『眠りの森の美女』は、数年前に初演されたばかりの新作とのことで、ようやく謎が解けると共に、この舞台を観ることが出来て感慨もひとしおです。

プロローグ

 闇の妖精、カラボスが魔法で赤ん坊を呼び出し、ベネディクト王(エドウィン・レイ)とエレノア妃(ケリー・ビギン)に与えます。

第一幕 1890年

 舞台は19世紀末。カラボスから授けられた赤ん坊は元気一杯に部屋中をハイハイしています。赤ん坊はあやつり人形で表現され、これが生き生きと床を這い、カーテンを登り、出演者にぺしっと平手打ちを喰らわす様子はとてもユーモラス。この人形が実に魅力的なので、第一幕にしか出てこないのは残念だと思っていたら、観客がそう思うのもお見通しだったらしく、終幕に再登場してくれます。

 妖精たちの踊りはきびきびしていて気持ちよく。古典版では全員が女性でしたが、そこはマシュー・ボーン版らしく半分は男性ダンサー。しかも古典版の振付をほとんどそのまま男性ダンサーに踊らせたり、古典版における「リラの精」を「ライラック伯爵」としてクリストファー・マーニーに踊らせたり、男性ダンサー向け振付の方が気合が入っています。

 ちなみに妖精アドゥアを鎌田真梨さんが踊っており、その男勝りの力強いダンスに感心。

 ライラック伯爵とカラボス(アダム・マスケル)との対決はライラックの圧勝に終わり、カラボスは、意外にも、まだ第一幕だというのに惨殺されてしまいます。この作品、妖精族がみんな血に飢えているというか、猛々しい奴ばっかり。ところで、敵役が抹殺されちゃったんですけど。

第2幕 1911年

 20世紀初頭。「現在」から百年前。なるほど、そう来るか。

 今やお転婆でワイルドな少女に成長したオーロラ姫(ハナ・ヴァッサロ)。乳母に隠れて、こっそり恋人レオ(ドミニク・ノース)と自室で密会しています。まだ第2幕だというのに既に恋人がいるとは、さすが展開早し。

 見せ場はピクニックのシーンですが、ここではテニスのラケットを持って踊ったりと、20世紀を強調する演出が多くなっています。現れたカラボスの息子、カラドック。古典版のようにいつまでも女装させとくのも何なので、殺された母の復讐にやってきた息子という設定で、アダム・マスケルが男の色気むんむんに踊ります。

 そのカラドックとオーロラ姫の対決パ・ド・ドゥは魅力的。古典版のいわゆる「ローズ・アダージョ」のシーンは、オーロラ姫が恋人レオといちゃつくシーンになっているのが妙に可笑しい。

 あまりといえばあまりのいちゃつきぶりに、もういいから早く眠らせろ、と観客が思ったところで、青いバラのトゲに刺されたオーロラ姫は百年の眠りに。

第3幕 2011年

 今や封鎖された城は『眠りの森の美女』として観光名所に。観光客がぞろぞろやってきてスマホで記念撮影するなど、「現代」が強調されます。衣装や動きは現代風になりますが、古典の雰囲気も多分に残っていて、そのバランスはさすが。

 カラドックとレオとオーロラ姫の三角関係、という対決シーンは古典版に比べて説得力があります。結局、古典版と違ってカラドックが勝利し、オーロラ姫を奪って逃げる。この展開は観客の予想に反していて面白い。

第4幕 昨日

 オーロラ姫とカラドックの結婚式、盛大な仮面舞踏会が開かれます。そこに、ライラック伯爵の手引きで潜入したレオ。正体を隠したままオーロラ姫に近づくが。

 もう古典版とは展開も雰囲気も全然違うじゃん、と思ったら、どうやらこれ『ロミオとジュリエット』。雰囲気も演出もそっくりです。衣装は現代風、振付はリミッター解除の勢いでめっちゃかっこ良くなります。いいなあ。

 カラドックとライラックの最後の対決、剣で刺し殺されるカラドック。このあたりも『ロミオとジュリエット』の決闘シーンみたい。手に手をとって逃げ出したレオとオーロラ姫が盛大にいちゃつくパ・ド・ドゥも、「バルコニーの場」をほうふつとさせます。

 それにしても妖精族のたぎり方ときたら。カラドックを何度も刺しては勝利の雄叫びをあげるライラックといい、新しいボスの誕生に拳を突き上げる勢いの妖精たちといい、どこの暴走族の抗争かと。

 というわけで、例えば深層心理レベルのテーマだけ残して設定や展開をまったく変えてしまったマッツ・エック版のようなドラスティックな改作ではなく、間延びしているシーンを引き締め、生ぬるいシーンには暴力的要素をつけ加え、全体的にスピーディにスタイリッシュに展開させ、でも古典版の雰囲気もちゃんと残してあるという、バランスがとれた気持ちいいマシュー・ボーン版『眠り』です。何と言っても、とにかく(特に男性ダンサーの)踊りがかっこいい、というのがやっぱり魅力的です。


ニュー・アドベンチャーズ公演
マシュー・ボーンの『眠りの森の美女』

2013年5月10日 ブリストル・ヒポドローム劇場(バーミンガム)
2013年12月16日 NHK-BS プレミアムシアターで放映

[キャスト]

演出・振付: マシュー・ボーン

オーロラ姫: ハナ・ヴァッサロ
レオ(狩り場の番人): ドミニク・ノース
ライラック伯爵(妖精の王): クリストファー・マーニー
カラボス(闇の妖精)、カラドック(カラボスの息子): アダム・マスケル
ベネディクト王: エドウィン・レイ
エレノア妃:ケリー・ビギン
マドックス(乳母): デイジー・メイ・ケンプ
妖精たち: ソフィア・ハードリー、鎌田真梨、ケイティ・ローウェンホフ、リアム・モワー、ジョー・ウォークリング


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