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『SFマガジン2014年1月号 第1回ハヤカワSFコンテスト大賞受賞作発表!』 [読書(SF)]

 SFマガジン2014年1月号は、第1回ハヤカワSFコンテスト大賞受賞作の一部、および最終候補作を掲載してくれました。また、『星界』シリーズの読み切り短篇も載りました。


『みずは無間(第1部)』(六冬和生)

 「探査機に搭載する人格に求められる素質の優先順位一位は自己を破壊しないこと。過度に期待したり過度に希望を持ったり過度に熱意を持ったりしないこと。(中略)こうして俺は極東でもっとも感情の起伏の少ない男という称号を得たわけだ。これはみずはの俺に対する評価と一致する」(SFマガジン2014年01月号p.41、42)

 深宇宙探査機に搭載された人工知能に、人格を転写された青年。果てしない時間と空間のなかで、様々な意味で拡散してゆきながらも、不意に人間だった頃の恋人「みずは」のことを思い出す。

 「みずはをあまり寂しがらせないようにすることはできても彼女の精神の奥深いところに巣くった渇望を取り除くことはできなかった。飢えのサイクルに編み込まれた自我がみずはというパーソナリティなのだと気づいたのは、ずっとあとだ」(SFマガジン2014年01月号p.29)

 依存性が強く、ストーカー気質で、過食症に苦しむ、みずは。彼女の渇望が、執着が、飢えが、膨大な時間と空間を超えて青年の人格を呪縛する。そこから逃れるために彼がとった行動とは。

 というところで第一部が終了してしまい、この先がどうなるのか知りたければ単行本を買って下さい、ということになります。第一部だけの印象で勝手なことをいうなら、サイコホラー系のもつれとグレッグ・イーガン(遠未来、果てしなく拡散してゆく知性、といった感じの)を合わせたような、どうもうっとうしい展開になるのではないかと。


『オニキス』(下永聖高)

 「書き換えにより新しく創られた過去もさらに上塗りされて書き換えられうる。諸行無常、不変なるものなどこの世に何ひとつないという真理は、過ぎ去った時間にすらあてはまるのだ」(SFマガジン2014年01月号p.74)

 過去と未来を接続する物質「マナ」。その発生消滅により、過去の「書き換え」が繰り返し起きていることが明らかになった。この「書き換え」を研究するために、マナで保護された外部メモリに記憶を一時的にバックアップすることで、「書き換え」を認識できるようにする、という実験が行われる。

 実験のモニターに選ばれた主人公は、過去、そしてその帰結としての現在が、不断に「書き換え」られ続けているこの世界の実相を認識する。それは途方もない体験だったが、それだけでは済まなかったのだ。

 「時系列が紡ぎ出す過去から未来への物語そのものが、僕らの一部でもあり、僕らもまたその一部なのだとしたら、書き換えられたあとの僕やメイは果たして、書き換えられるまでの僕らと同じ存在と言えるのだろうか」(SFマガジン2014年01月号p.76)

 時間テーマ、タイムパラドックステーマの変種に、グレッグ・イーガン(近未来、新しいテクノロジーにより拡大された認識が、意識や自我の同一性や連続性を大きく揺るがしてゆく、といった感じの)風味を加えた中篇。

 私たちが感じる根源的な不安、「この世界は5分前に(過去履歴と共に)発生したもので、5分後には何の痕跡も残さずに消滅する、そうでないことを証明できるか」をうまく突いていて、読みごたえがあります。後半、二転三転する急展開が引き起こす混乱は、ひねりすぎにも感じられますが、これも「書き換え」を読者に疑似体験してもらおうという狙いかも知れません。


『岐路 星界の断章』(森岡浩之)

 「帝都ラクファカールは混乱の極みにあった。そのなかを、<クニュムラゲール>という名の特設工作艦(ダウスィア・ディフィカ)が進んでいた。 その艦橋(ガホール)で、コリュア・ウェフ=ボーザク・コンサ千翔長(シュワス)は空識覚器官(フローシュ)を澄ましていた」(SFマガジン2014年01月号p.153)

 アーヴの帝都ラクファカールの陥落が迫るなか、帝都防衛のために軌道館を要塞化するという任務を命じられ、故郷に帰還したコンサは、そこでかつての恋人ナースと再会する。

 「独立戦隊(ソーヴ・ラゴラザ)の任務はふたつあった。第一は、コリュア館を含む、一四の軌道館(トービア)から住民をソトリュール鎮守府(シュテューム・ソトリューラル)へ避難させることだった。第二は、軌道館のひとつを帝都防衛団(ソブレラシュ・アロク)のために要塞(リュール)へ改造することだった」(SFマガジン2014年01月号p.154)

 軍人として出世を目指すコンサ、交易を手がけ気ままに生きることを選んだナース、相いれない人生観ゆえに別れた二人。だが今や戦火は帝都に迫り、皮肉なことにナースは帝都防衛団員として死地に赴くことになっていた。そのことを知ったコンサは・・・。

 と、メロドラマの途中で申し訳ないのですが、この星界のルビ、読んでいる方も、おそらくは書いている方も、とても楽しいのですが、これが引用のために書き写すとなるとものすごく面倒くさいことがよく分かりました。


タグ:SFマガジン
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