SSブログ

『犯罪は予測できる』(小宮信夫) [読書(教養)]

 「捕まってニュースになるのは、犯罪が失敗しそうな場所でも犯罪をしてしまう、ごく一部の犯罪者である。この種の犯罪者は、放っておいても警察が捕まえてくれる。しかし、場所選びをする犯罪者は、警察では捕まえきれない。その結果、検挙率は一割を切ることになる。 だがしかし、悲観的になる必要はない。犯罪者が場所を選んでいるのなら、そこがどこなのかあらかじめ分かれば、先手を打って犯罪を未然に防げるはずだ」(新書版p.29)

 犯罪科学の最先端を紹介しつつ、日本でまかり通っている防犯知識の嘘を徹底的に暴く衝撃の一冊。新書版(新潮社)出版は、2013年09月です。

 「海外では防犯の基礎として定着している犯罪機会論だが、日本ではほとんど知られていない。そのため、奇妙な防犯知識がまかり通っている」(新書版p.7)

 ということで、私たちが何となく信じている防犯知識がいかに間違っているかを解説してくれます。それはもう、「第I部 防犯常識のウソ」の目次を眺めるだけで、びっくりします。

  「1. 事件の九割は未解決」

  「2. 「地域安全マップ」は偽物ばかり」

  「3. 防犯ブザーは鳴らせない」

  「4. 住民パトロールは弱点を突かれる」

  「5. 街灯は犯罪者を呼び寄せる」

  「6. 監視カメラに死角あり」

  「7. 「いつも気をつけて」は無理な注文」

  「8. 「人通りの多い道は安全」ではない」

  「9. 日本の公園とトイレは犯罪者好み」

 普通に信じていた防犯常識がまったくあてにならないどころか、場合によっては逆効果だというのはけっこう衝撃的。著者は犯罪機会論の研究成果を示しながら、正しい防犯の発想を詳しく紹介してくれます。基本的な考え方は次の通り。

 「人に注目している限り犯罪は予測できない。犯罪を予測するためには、絶対にだまされないものにすがるしかない。それが景色である。(中略)にもかかわらず、日本では景色読解力を高める教育や訓練がほとんど行われていない。「不審者に注意しましょう」が防犯の基本とされているからだ」(新書版p.54、104)

 「不審者という言葉が、日本で多用されるのには理由がある。それは、犯人を捕まえ、犯行に至った原因を探り出し、それを取り除こうとする犯罪原因論の影響が絶大であり、被害に遭いにくい場所を作ろうとする犯罪機会論が普及してないからだ」(新書版p.105)

 人間の「心の闇」とやらが原因ではなく、犯罪が成功しやすそうな機会や環境の存在が犯罪者を引き寄せるのだ。だからそれを取り除けば犯罪は防げる。単純明快なこの発想から、正しい防犯に対する考え方が分かってきます。説得力があります。

 また、主に海外の犯罪研究の成果があちこちに書かれていて、これが面白いのです。

 「パトロール中の警察官がホットスポット(犯罪多発地点)に滞留する時間が15分までは、滞留時間が長くなれば長くなるほど、警察官がいなくなってから犯罪が起きるまでの時間が長くなる(=防犯効果が大きくなる)。しかし、その時間を超えて滞留していると、犯罪発生までの時間は短くなる(=防犯効果が小さくなる)」(新書版p.69)

 「監視カメラが大きな効果を発揮するのは車両犯罪に対してだけ」(新書版p.96)

 「最も安全な場所は「人通りのない場所」ということになる。これは常識とは正反対の見方だ。そのため、なかなか受け入れてもらえない」(新書版p.112)

 他にも、米国テネシー州メンフィス市警が、統計履歴を活用した犯罪予測システムを試験的に導入してみたところ、「驚くべきことが起こった。スタートから2時間で、何と70人もの犯罪者が逮捕されたのだ」(新書版p.188)といった、興味深いエピソードが次々と登場します。

 「第II部 進化する犯罪科学」では、犯罪学の歴史を紹介した上で、犯罪機会論がどのようにして登場してきたのかを学術的に解説してくれます。

 「犯罪は、刑法、加害者、被害者、犯行時間という四つの要素が同時に存在する場合に成立する。そして犯罪科学は、この順序に沿って発展してきた」(新書版p.150)

 「場所・状況・環境を重視する犯罪科学は、犯罪を発生させる要素のうち、取り除ける可能性が最も高いのは犯罪機会であると主張する」(新書版p.170)

 ちなみに、著者が考案した「犯罪抑止の三要素」(新書版p.171)の表に、犯罪機会論の結論がコンパクトにまとめられていますのでご確認ください。

 というわけで、正しい防犯の考え方を知りたい方にも、また犯罪学の発展と成果について概略を学びたいという方にも、役に立つ一冊です。

 「防げる犯罪は確実に防ぐ----それが犯罪機会論のコンセプトである。犯罪機会論は、やり尽くすべき仕方を提案している。しかもそれは簡単なものばかりだ。(中略)やれるだけのことをやって、それでも被害に遭ったらあきらめる。もちろん容易ではないが、ベストを尽くしていれば、きっとあきらめきれる。また前を向ける。違うだろうか」(新書版p.198)


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0