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『離れ島』(石川美南) [読書(小説・詩)]

  「息を呑むほど夕焼けでその日から誰も電話に出なくなりたり」

 どこにでもある日常的な光景が、実は摩訶不思議なものであると気付いてしまう歌集。『裏島』と同時刊行されました。単行本(本阿弥書店)出版は、2011年09月です。

 様々な作品が収録されていますが、勝手に分類して、ざざっと書き写してみましょう。

 [知人] みんなどうしたの。

  「列車から振り落とされた友だちはすごい速さで追つてきにけり」

  「泣きながら搔き分けてをり恋人の髪につむじが見当たらなくて」

  「ごめん途中で寝てしまつたと朝方に送る「(件名)Re:Re:言ひ忘れ」

  「午前二時のロビーに集ふ六人の五人に影が無かつた話」

  「非常灯/君は大きく振りかぶり/そこで私の記憶は終はる」


 [建物] そこには秘密。

  「生真面目に夕空を切り取りながらひねくれたくてたまらない窓」

  「トイレットペーパーに深い指の跡、使へば消えてゆく指の跡」

  「エレベータの外皮はがれて私たち虚ろな階へ転がりおちる」

  「流れるプール流るるままに浮かび来てここからは足の立たないプール」

  「「発車時刻を五分ほど過ぎてをりますが」車掌は語る悲恋の話」

  「会社支給の赤ペンを最大限に利用して書く赤いうづまき」


 [生物] 何かたくらんでいる。

  「遊園地のお化け屋敷に本物の狸が住んでゐるといふ話」

  「いかさまの臭ひを嫌う鳥たちが一斉に飛び立つて南へ」

  「手榴弾はじけたるのち水底に増えゆくウミウシの仲間たち」

  「寂しきは電気仕掛けのかたつむり渦巻く殻のなかの電飾」

  「頭の上に膝を抱へてあはれあはれ蛸を産むのは蛸ばかりなり」


 [生活] なつかしく謎めいて。

  「人間のふり難儀なり帰りきて睫毛一本一本はづす」

  「十月に長い休暇を取るのだとあなたの著者があなたに言わす」

  「「きらきら」の定義について論じ合ふシンポジウムに識者が集ふ」

  「エンジンの冷却のためこの星があるのですよと静かなるこゑ」

  「身体中にココアぬられて替へたてのシーツ一枚だめにする話」

  「誰か知らないかほんとに誰も知らないのか黒い林檎の話」


 というわけで、他の人が見過ごしているような、奇妙なこと、不可解なこと、変なことを、丹念に拾い上げたような歌集です。いっけん奇矯に見えて、意外と伝統的。同時刊行の『裏島』についても、昨日の日記でご紹介しています。


タグ:石川美南
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