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『エコ・ウオーズ 低炭素社会への挑戦』(朝日新聞特別取材班) [読書(教養)]

 「ビジネス界は温暖化対策の交渉の一進一退には関係なく、前を向いてグリーン産業分野で競争している。我慢ではなく経済と技術の力で削減する。この潮流に早く乗った企業や国が次世代のビジネスでも勝つということだ」(Kindle版No.471)

 自然エネルギーと低炭素社会の未来をめぐって、世界中の企業や国が激しい競争を繰り広げている。日本はいつの間に出遅れてしまったのか、その背後にはどのような事情があるのか。朝日新聞の連載記事を元に書籍化した一冊。電子書籍版を、Kindle Paperwhiteで読みました。単行本(朝日新聞出版)出版は2010年03月、Kindle版は2013年05月に出版されています。

 温暖化対策、CO2排出量削減、自然エネルギー推進、といった言葉を聞くと、「いろいろ我慢して仕方なくやるもの」、「建前的な目標を律儀に守ろうとすると、経済の停滞を招いてしまう」などと感じる人も多いのではないでしょうか。

 しかし、世界各国はとっくに自然エネルギーや低炭素社会を前提として、次代のビジネスを支配するための熾烈な覇権争い(エコ・ウオーズ)を繰り広げているのだ、ということが、本書を読めばよく分かります。

 「売上高や利益、株価が企業の評価基準だった「マネー文明」に、環境負荷を極小にするという枷がはめられる。「低炭素資本主義」が、すぐそこに待ち構えている」(Kindle版No.720)

 「持続可能な企業を塗り分けたり、CO2排出量などを開示させようとしたりする動きが起きているのは、何より機関投資家など「マネー」がそれを欲しているからだ」(Kindle版No.694)

 「欧州はこうした将来ビジョンの中で自然エネルギーの市場を増やし、企業はその中で勝つか負けるかの競争を始めている。「自然エネルギーを増やすべきかどうか」で足踏みしている日本とはかなり異なる位置にいる」(Kindle版No.872)

 「世界の製造基地として成長を遂げるアジアの国々では、太陽電池が次代の主要産業に躍り出ようとしている。各国とも、国策として関連産業の誘致に熱心だ」(Kindle版No.1135)

 しかし、たしか日本の環境技術は世界最先端ではなかったのでしょうか。

 「日本はこの分野で先進的なスタートを切ったはずだが、いつの間にか他国に追い越され、自然エネルギー後進国になっている」(Kindle版No.822)

 「日本の風力発電の累積導入量の順位はずるずると後退して世界13位でしかない」(Kindle版No.1209)

 「世界風力会議(GWEC)のまとめでは、2009年における風力発電導入量で中国は米国を抜いて世界1位(1300万キロワット)となった。太陽電池も2007年に生産能力が世界一に(中略)。CO2排出世界一の汚名の裏で、自然エネルギー分野で「世界一の座」を獲得しつつある」(Kindle版No.1592)

 「太陽電池パネルも似た道をたどる。2005年は世界生産の47パーセントが日本だったが、2008年は中国が1位、ドイツが2位、日本は18パーセントで3位に落ちた」(Kindle版No.1255)

 「「日本は高い技術をもち、環境でリードしている」。多くの日本人は漠然とそう考えている。確かに技術はある。だが、2030年や2050年の世界や日本はどうあるべきかという大きな問いへの答えを持たなければ、他国が描く夢に部品を納入し続けることになる」(Kindle版No.1231)

 顔色が青ざめるようなデータが次々と提示されてゆきます。自然エネルギーへの移行はもはや理想でも建前でもなく、まったくリアルなビジネス競争になっており、そして日本はその市場から脱落しつつあるというのです。

 本書はこのような問題意識から出発して、日本で自然エネルギー導入が遅々として進まない事情、政策の混乱、ビジョンの欠如、保守化の風潮、など様々な課題を洗い出してゆきます。このまま日本の環境技術を腐らせてゆくのは、経済政策の観点からも、地球環境問題の観点からも、決して望ましいことではありません。

 原発再稼働、電力安定供給、電源ベストミックス、温暖化ガス排出量削減目標を取り下げるべきか、といった目先の議論とは別に、将来をみすえた長期展望が今こそ必要とされていることがよく分かる一冊です。2010年に出版されたので、当然ながら東日本大震災と原発事故による社会変化には触れていませんが、基本的な問題は今も変わらない、というよりむしろ悪化・後退しているように思えます。

 「私たちは「CO2本位制」とも言うべき、人類にとっては未知の「低炭素社会」時代を、歩み始めている。そんな新時代に向けて、新産業を育てることや社会構造を変えることに、この国の未来を賭ける価値は十分あるはずだ」(Kindle版No.2067)

 新聞の連載記事を雑にまとめた感が強く、話題があちこち飛んだり重複したり、展開が混乱していたり、けっして読みやすい文章とは言えません。しかし、自然エネルギー、環境ビジネスの現状と将来を考えるときに重要となるポイントをおさえることは出来るので、このテーマに興味がある方には一読をお勧めします。


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