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『Salves サルヴズ』(振付・演出:マギー・マラン) [ダンス]

 2013年06月16日(日)は、夫婦で彩の国さいたま芸術劇場に行って、マギー・マランの公演を鑑賞しました。

 舞台の上は、まるで工事現場のように殺風景な部屋。積み重ねられた板多数、そして四台のオープンリール映写機が周囲を取り巻いています。この「部屋」で出演者七名が様々な寸劇、フィジカルアクトを繰り広げます。上演時間70分。

 映写機の「かちっ」というスイッチ音が響くと舞台は暗転。数秒後にまた「かちっ」というスイッチ音がしてどれか一台のオープンリールが回り出し、すると舞台上には出演者たちが登場して何やら古めかしいサスペンス映画の一場面のような寸劇を行います。すぐに「かちっ」というスイッチを切る音がして舞台は暗転。数秒後にまたもや「かちっ」。

 これをひたすら繰り返します。つまり、様々な映画を「ザッピング」してランダムな順番で細切れに「上映」している、それを主演者が入れ代わり立ち代わりフィジカルに演じる、という趣向。セリフなし。状況説明なし。

 何人かで走って逃げている途中で倒れる女性、忙しく食器を運んでいるときに床に皿を落として割ってしまい全員が凍りつく、死体の上着を無理やり脱がせる、何やら怯えて様子を見に出てきたと思しき人物の背後から伸びて襲いかかる手、床に落ちて割れた陶器を拾い上げて元に戻そうとする、といった古典的なサスペンスシーンの数々が、細部を変えながら何度も何度も繰り返されます。

 不協和音をベースとしたサスペンス映画のサントラみたいな音楽がノイズ混じりにずっと続いているのも観客の神経を逆撫でします。

 前後の脈絡がないシーンを数秒単位で切り替えて「放映」するのですから、出演者の忙しさときたら。観客に見えない暗闇では、直前のシーンで使われた舞台道具を大急ぎで片付ける者、次のシーンのために着替える者、「部屋」に登場するタイミングを図って位置取りする者、などが時計仕掛けのように正確に、かつ無音で走り回っているはずです。

 普通の意味でいうダンスシーンもいくつかありますが、いずれもストロボ効果が使われていて、これは下手に使うとダサくなってしまう演出なんですが、さすがにむっちゃカッコいい。男性ダンサーのソロがお気に入り。

 最後は時間をとって古典的なドタバタ(パイ投げあり)が繰り広げられ、そこにイエスが再臨、おお、サルヴェーション・イズ・クリエイテッド! となるわけないです、マギー・マラン。

 全体的にはシリアスで緊張感のある雰囲気のまま、細切れ寸劇を一時間もひたすら繰り返すという不条理劇で、もしかしたら演劇として観るとさほど面白くなかったのかも知れません。

 しかし、机上から直立した姿勢のまま女性が倒れかかりそれを男性がそのままリフトする、机に横たえられた「遺体」が机と机の隙間に腰からずるずると沈んでゆく、数名の出演者が走りながら一つの家具(花瓶や絵画)を次々に渡しあう、複数の登場人物が完璧に同期して動く、しかもその人数が増えてゆくなど、ダンサーならではの驚異的な身体能力を活かした振付が頻出するところが魅力的で、ダンス作品として観るとこれがかなり楽しめました。


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