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『短篇ベストコレクション 現代の小説2013』(日本文藝家協会、宮内悠介、三崎亜記) [読書(小説・詩)]

 2012年に小説誌に掲載された短篇から、日本文藝家協会が選んだ傑作を収録したアンソロジー。SFやホラーなどジャンル小説も含まれていますが、基本的には一般小説というか、いわゆる中間小説がメインとなっています。文庫本出版は2013年06月です。

 15篇の収録作のうち、個人的に気に入った作品について紹介します。


『四人組、大いに学習する』(高村薫)

 「ひまな人間が最先端のネット環境を手に入れたらどうなるかの見本のような事態になるのにも時間はかからず、(中略)思いつきの書き込みが本人たちの与り知らないところで増殖してゆくのだが、その拡散もスピードももはや年寄りの想像力を超えており、彼ら自身、自分たちのでっち上げた話の広がりに何度自分で驚くことになったか知れなかった」(文庫版p.229、230)

 老人しか残ってない過疎村に何の手違いか光ファイバーがひかれたことから始まる大騒動。エロサイトにはまる爺さん、韓流スターにはまる婆さん、デマ釣りステマ炎上たれ流し。でっち上げパワースポットがブームになり、高齢戦隊ジイサンジャーと暗黒星雲ミドリムシ怪人が戦い、狸や狐は美少女に化けてアイドルグループTNB48を結成。そもそも煩悩まみれの村は、さらに欲惚けフルスロットルに。

 過疎村落における高齢者のしたたかさ、えげつなさを書かせたら天下一品の著者によるネット文化狂騒曲。いやー、弾けてて、すごく面白かった。


『横領』(筒井康隆)

 「今回のこれはおれ、しかたなしに協力したけど、経験豊富なだけに、こちらへとばっちりがこないような工作は念を入れてやったつもりだ。だから絶対大丈夫なんだよ。君も安心していいんだよ」(文庫版p.269)

 会社で何やら大規模な横領に手を染めているらしい男、その上司、その愛人。高級レストランを舞台に三人が牽制しあっているとき、そこに警官が踏み込んでくる。無駄のない研ぎ澄まされたドラマと会話がわずかなページ数に結実しており、もう名人芸としかいいようのない短篇。


『妻の一割』(三崎亜記)

 「奥さんが発見されました」
 「どこで発見されたんですか?」
 「発見された場所です」
 「そうですか」(文庫版p.341)

 失くした妻が発見されたので引き取りにいったところ、謝礼として「妻の一割」が発見者に渡されたことを知る。戻ってきた「九割の妻」に、何とはなしに不満を感じる男。しかし、「残り一割」を返してもらったら、家庭は元通りになるのだろうか。不条理なことを大真面目に書いて読者を困惑させる、いかにもこの作者らしい作品。


『百匹目の火神』(宮内悠介)

 「なぜ猿たちはいっぺんに火を覚えたのか、さまざまな推測がなされた。 二度目の集団放火は、千キロ以上離れた九州と関東で同時に勃発した。このため、猿同士になんらかの交流があるのではなく、共時性(シンクロニシティ)の類いが働いているものと考えられた」(文庫版p.370)

 あるとき、一匹の猿が火をつけることを覚える。やがて放火猿はどんどん増えてゆき、百匹目の猿が火遊びを覚えた途端、全国で猿の集団が人家に火を放つ事件が続出する。パニックになった人類は右往左往して・・・。

 著名オカルトネタをベースに、ホラーあるいはパニック小説に見せかけた大真面目な文章でこっそり笑いをとるという、著者のユーモアセンスが大いに発揮された一篇。この作者の「お笑い短篇集」を出してほしいものです。


 他には、ありふれた恋愛小説だと思わせておいて、油断した読者をどんどん怪談に引きずり込んでゆく手際が見事な『岬へ』(小池真理子)、高校の吹奏楽部を舞台に、音楽に恋に全力で頑張るストレート青春小説『晴天のきらきら星』(関口尚)、幼い少年たちの友情をえがいた感動的な物語のはずなのにこの人が書くと何だか怖くて嫌な読後感が残るよ不思議だねえ『チョ松と散歩』(平山夢明)、などが気に入りました。


[収録作品]

『時の過ぎゆくままに』(井上荒野)
『私と踊って』(恩田陸)
『いつかの一歩』(角田光代)
『家族会議』(勝目梓)
『予告殺人』(草上仁)
『岬へ』(小池真理子)
『晴天のきらきら星』(関口尚)
『四人組、大いに学習する』(高村薫)
『横領』(筒井康隆)
『幸福駅二月一日』(原田マハ)
『チョ松と散歩』(平山夢明)
『妻の一割』(三崎亜記)
『百匹目の火神』(宮内悠介)
『イエスタデイズ』(村山由佳)
『最後のお便り』(森浩美)


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