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『平和主義とは何か 政治哲学で考える戦争と平和』(松元雅和) [読書(教養)]

 「護憲派・改憲派を問わず、相手の主張をはじめから戯画化・歪曲化して、一方的に棄却するのは公平ではない。現在の私たちには、国是として平和主義を掲げることが何を意味するのか、そして平和主義が非平和主義と比較してどれほど妥当なのかを冷静に見極める議論の土俵が必要なのである」(新書版p.iii)

 平和主義とは何か。それは戦争を止める現実的な力たりえるのか、それとも空疎で無責任な理想論に過ぎないのか。政治哲学としての平和主義を分かりやすく解説する一冊。新書版(中央公論新社)出版は、2013年03月です。

 現在の日本国憲法は、国民主権や基本的人権尊重とならんで、平和主義を基本原則として掲げています。しかし、この「平和主義」は様々な批判にさらされているようです。

 いわく、平和主義者はどんな場合でも無条件に非暴力を貫徹しなければならないのか、話が通じない敵が攻撃してきたらどうするのか、大虐殺を止めるための人道介入にも反対するのか、目の前で愛する人が襲われたときに座視するのが平和主義なのか、うんぬん。

 本書は、政治哲学としての「平和主義」とは何かを整理し、それに対する批判も吟味した上で、建設的な議論のための土俵を提供するものです。

 全体は七つの章に分かれています。第一章で平和主義を分類し、第二章と第三章で「そもそも戦争に反対する理由はなにか」を問い、第四章以降で平和主義に対する批判を取り上げるという構成になっています。

 最初の「第一章 愛する人が襲われたら----平和主義の輪郭」では、「愛する人が目の前で暴漢に襲われているときにも、平和主義者は非暴力を貫けるのか」というありがちな批判を取り上げ、それに答える形で様々な「平和主義」の分類を示します。

 いかなる場合にも非暴力を貫く絶対平和主義、例外を認める平和優先主義、国家の政策に対する非暴力主義、私人の行動原理としての非暴力主義、など、その強度と範囲によって様々な平和主義があることがここではっきりします。

 「こうしてみると、一口に平和主義といっても、そのなかには実に様々なバリエーションがあることが分かるだろう。「愛する人が襲われたら」批判は、これらのバリエーションを区別しないことから生ずる作為的な疑似問題にすぎない」(新書版p.24)

 「第二章 戦争の殺人は許されるか----義務論との対話」では、戦争はそもそも罪悪である、という議論を取り上げて分析します。

 「第三章 戦争はコストに見合うか----帰結主義との対話」では、戦争に反対するのはそれが割に合わないからである、という議論を取り上げて分析します。

 「第四章 正しい戦争はありうるか----正戦論との対話」では、すべての戦争が間違っているわけではない、自衛戦争は正義である、という議論を取り上げて分析します。

 「第五章 平和主義は非現実的か----現実主義との対話」では、いくら理想を唱えようと現実に国家間の戦争はなくならないのだから、平和主義の正当性や有効性を論じるのは無意味だ、という議論を取り上げて分析します。

 「第六章 救命の武力行使は正当か----人道介入主義との対話」では、大虐殺が起ころうとしているとき武力介入しないのは、自分の手を汚さないために多くの人々が死に追いやられるのを見過ごす無責任な態度だ、という議論を取り上げて分析します。

 そして「終章 結論と展望」では、全体を振り返りつつ、著者の主張を控えめに述べ、最後に政治哲学の議論が何の役に立つのかを考えます。

 全体を通じて記述は平易で分かりやすく、また基本的には平和主義を肯定する立場で書かれてはいるものの、他の様々な思想的立場を尊重しながら公平に論を進めており、好感が持てます。

 というわけで、例えば憲法9条改正について議論する前に、「戦争と平和」に関する政治哲学上の基本的な議論をざっと知っておきたい、という方にお勧めです。


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