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『SFマガジン2013年6月号 日本作家特集/寺田克也特集』(小田雅久仁) [読書(SF)]

 SFマガジン2013年6月号は、日本作家特集および寺田克也特集ということで、日本作家の読み切り短篇3篇、そしてデイヴィッド・モールズの短篇を翻訳掲載してくれました。


『11階』(小田雅久仁)

 「世界で生まれてしまった、世界を揺るがすほどの恐ろしい物語や悲しい物語は、それを経験した一人ひとりの中に埋めこまれたまま、その人たちと一緒に真っ暗な“穴”の中に消えてゆき、永遠に失われるの。まるで体から毒を排出するように、人間の命と一緒に悪い物語を葬り去って、忘れ去って、世界はそうやって生き長らえてゆくの」(SFマガジン2013年06月号p.30)

 10階だてマンションの最上階に住む女性。ときおり発作を起こして、意識が「11階」と呼ばれる異世界に入り込んでしまう。彼女と連れ添う夫も、あるとき自分が「11階」に迷い込んでしまったことに気づく。彼女はそこで誰を待ち続けているのか。そして彼女を救うことは出来るのだろうか。

 『本にだって雄と雌があります』の作者による素晴らしいダークファンタジー。設定や展開は『航路』(コニー・ウィリス)を連想させますが、雰囲気はかなり違います。「物語」と人生を重ね合わせる手際が実に巧みで、個人的にすごく好き。


『死んでれら、灰をかぶれ』(松永天馬)

 「わたしの名前は死んでれら。またの名を、灰かぶり姫。宝石の輝きは、土の下、死者の国のすぐそばにある。語りえぬものと言葉の戦火を潜り抜け、灰とダイヤモンドを隔てて、生と死を遮るように、少女の裸が横たわる」(SFマガジン2013年06月号p.59)

 「君の少女が終る前に、お城を我々の手に取り戻そう」(SFマガジン2013年06月号p.56)

 トラウマテクノポップバンド「アーバンギャルド」のリーダーによる処女作(文字通り)。もちろんテーマは「少女」で、月に少女のための王国があったり、少女が電車に飛び込んだり、戦争(ウサギ対少女)が起こったり、いっぱい血もでちゃったり、「アーバンギャルド」の歌詞まんまの世界が展開します。

 あまりにイメージ通りなので意外性がありませんが、はたしてこれから大槻ケンヂを超えちゃったりするのか、それなりに注目したいと思います。


『The Show Must Go on!』(仁木稔)

 「人間に自尊心を与えるために、亜人は惨めな状態で居続ける必要がある。それも、奴隷労働だけじゃ間接的すぎて不充分なの。目に見える暴力がなくちゃ」(SFマガジン2013年06月号)

 遺伝子操作により造り出された亜人を奴隷労働させることで、人類は平和と繁栄を謳歌していた。やがて亜人に行わせる「戦争」を娯楽として消費するうちに、人類は内なる暴力的性向を失い、それと共に創造性をも失ってゆく。

 現実の国際問題に人造人間の設定をからめるという歴史改変により、人間の本質を浮かび上がらせようとする連作シリーズ最新作。伊藤計劃が遺したものが着実に受け継がれているようにも感じます。5月に出版される『ヨハネスブルグの天使たち』(宮内悠介)もそう。


『街に兵あり』(デイヴィッド・モールズ)

 「神々や都市がおたがいに争うのは他所に先んじるため、影響力を得るため、あるいは負債を帳消しにするためだ。殲滅戦など論外である。しかし、放浪民が<とうきび祭>を襲った目的はまごうかたなくバビロン殲滅であり、それを許しておけないイシュもまた敵を殲滅しようとしているのだ」(SFマガジン2013年06月号p.169)

 バビロン球状星団に属する惑星に対して、宇宙空間からの襲撃が行われ、統治者である女神が殺害される。復讐心に燃える一人の軍人が、生き残りの兵士たちと共に、犯人である放浪民を殲滅するため宇宙へと飛び立つが・・・。

 神話的世界を舞台としたスペースオペラ。それほど面白くないし独創性もないのですが、ごく短い印象的なシーンを積み重ね、途中はすっとばして、長篇なみの展開を短篇に詰め込んでしまう技量はなかなかのもの。


[掲載作品]

『11階』(小田雅久仁)
『死んでれら、灰をかぶれ』(松永天馬)
『The Show Must Go on!』(仁木稔)
『街に兵あり』(デイヴィッド・モールズ)


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