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『百年の家』(作:J・パトリック・ルイス、絵:ロベルト・インノチェンティ、訳:長田弘) [読書(小説・詩)]

 「そうして、いまにつづく現代の夜明けのときに、わたしには、新しいいのちが吹き込まれたのである」

 怒濤の20世紀を目撃した一軒の家の物語。単行本(講談社)出版は、2010年03月です。

 場所は欧州のどこか。イタリアでしょうか。17世紀半ばに建造され、ながいあいだずっと廃屋として山奥で長い時間を静かに過ごしてきた一軒の家。見つけた人々は、そこを改築して住むことにします。

 山のなだらかな斜面を鳥の視点から見下ろしたような場面が見開きカラーで描かれます。そして、視点を固定したまま、ページをめくる毎に1900年から1905年へ、1915年へ、1918年、1929年、1936年、1942年、1944年、1958年、1967年、という具合に20世紀を駆け抜けてゆき、最後は1999年の光景で終わります。

 場所は同じですが、時間が経過する毎に、情景は様々に変化します。山奥だった場所が開墾され、木々が切り倒され、田畑が作られ、井戸が掘られ、家畜が歩き、人々の生活が始まります。

 葡萄酒が作られ、小麦が収穫され、結婚式が執り行われ、そして世代が変わり、人々の服装も変わってゆきます。

 空が真っ赤な色に染まり、人々が山へ避難してきます。装甲車が登場し、銃を構えた兵士たちが現れます。人々は苦しみ、涙を流しています。

 人が死に、人が生まれ、歳月はどんどん流れてゆきます。視点は同じ、場所も同じ、画面の右に位置する「家」はそのすべてを見ています。やがてその家もぼろぼろになり、土台が崩れてゆき、再び廃屋となります。人々の姿も消えてしまいます。

 そして20世紀が終るとき、そこはどうなっているのでしょうか。

 美しい色調で描かれた自然と人々と建造物はうっとりするほど魅力的で、いつまでも眺めていたい気持ちに。視点を固定したまま、同じ場所の変化を見せるという趣向が見事に決まっていて、100年という歳月をビジュアルに感じることが出来ます。

 100年という歳月、20世紀という時代、それこそが本書の主役。人の命ははかないとか、戦争は悲惨だとか、押しつけがましいことを言わず静かに佇んでいる家の態度も好ましい。

 まだ人生経験が少ない子どもが読んでどう感じるのかは分かりませんが、ある程度の歳月を生き、世の中が大きく変わってゆく様を実際に見てきた読者には、強い感慨が呼び起こされます。胸にせまり来るものがあります。


タグ:絵本
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