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『アスタリスク』(大松達知) [読書(小説・詩)]

  「趣味が高じて本まで出したセンセイと紹介されて ぐつとこらへて」

 男子校の教師として勤務している著者による歌集。単行本(六花書林)出版は2009年06月です。

 旅行、ペット(亀)、時事など様々な対象が扱われていますが、やはり中心となるのは勤務先である学校(中学高校)をよんだ短歌です。教師の目から見た学校生活を、すこし滑稽な感じで描写する作品が多くなっています。

  「台風のため早帰りさせるとき狂喜乱舞といふさまはあり」

  「君が代斉唱のとき起立せぬ保護者一組をちらちらと見る」

  「超法規で進級させんとする会議ゆゑに夜までかかり候」
 
  「さうですね、さうなんですよ、頷いてゐれば終はつてしまふ面談」

  「わづかづつ偽装してわれら生きをらん 易しめにする考課問題」

  「趣味欄の「ピアノ」の下に(他の人には絶対に言わないでください。)」

  「一生を終へたことなきわたくしが英語は一生役立つと説く」

  「<B面>て何? と訊かれて乱れたる授業はもとに戻らざりけり」

  「職員室十四年目のこの夏は黙つて設定温度を上げる」

  「同僚の噂話はたのしけれなかんづく株で損した噂」

  「「わが国」と大観衆を前に言ふ悦楽を思ふ思ふのみなる」


 個人的に笑ってしまったのが、入試問題の不思議をよんだ歌。そして言葉使いがなっちゃいねえ中高生男子に対するいらだちをこめた歌。

  「なにゆゑかひとりで池を五周する人あり算数の入試問題に」

  「誤答なる選択肢(3)「日本は老人を減らさねばならない。」」(実話。)

  「<むかつく>の訳(わけ)に<うざい>と<きもい>あり十四歳の生徒に問へば」

  「ビミョウかも、ふつうに、なにげに、よくなくない? すれ違ふたび死ねと言ひたり」

  「携帯電話を携帯と呼ぶ人々は太平洋戦争を太平洋と呼ぶか」

  「<すこしづつ>われの板書を指摘する生徒は日本政府の手先」

  「コンピューター<マウス>の複数形にして<マウシーズ>あり英語おそるべし」


 意外な発見や、思わずはっとするような新しい抒情、などはありませんが、「あるある、ありそう」と共感させるユーモアが特徴です。風刺や主張が込められた作品も多いのですが、その多くが薄っぺらい借物ご意見(新聞の投書欄みたいな)に思えて、あまり感心しません。

 あと妻をテーマにするとサラリーマン川柳みたいなオヤジ定型になってしまうのが残念なところですが、これが(ペットの)亀をよむと冴えてくるのが何とも。亀、愛されてるな。

  「メスに乗るためにお腹の真ん中がちよつと凹んでゐるカメのオス」

  「怒らないカメは妻より御しやすく金魚のエサで日に日に肥える」

  「カメはいくら育ったところで入試なし入試なければ勉強しない」

  「いかんせん日本人にて三匹のカメのひとりをお兄ちやんと呼ぶ」

  「世の中が何と決めてもわが家ではカメはひとりふたりさんにんである」


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