SSブログ

『「神道」の虚像と実像』(井上寛司) [読書(教養)]

 「日本や世界の多くの人びとのあいだで、日本の神社や神祇信仰が太古の昔に成立し、今日まで変わることなく連綿と伝えられてきたとの理解が広まっている。しかし、後述するように、こうした理解は明らかな事実誤認にもとづくものといわなければならない」(Kindle版 No.78)

 一般に、日本古来からの民族的宗教と見なされている「神道」。しかし、その理解は正しいのだろうか。神道が持つ宗教としての特異性を、日本史そのものの特異性と表裏一体のものとして読み解いてゆく一冊。新書版(講談社)出版は2011年06月、電子書籍版の出版は2012年09月です。電子書籍版を、Kindle Paperwhiteという電子書籍リーダーで読みました。

 まず、日本人と宗教との関わりの「異常さ」あるいは「不可解さ」を指摘する導入部が素晴らしい。ぐっときます。いわく。

 「国民の圧倒的多数が(中略)みずから「無宗教」(無神論とは異なる)だと称していることである。各種の統計類から、その数は国民の約七割にも達するとされる」(Kindle版 No.28)

 「各種宗教団体から報告される信者数の総計が日本の総人口をはるかに越えている」(Kindle版 No.31)

 「総務省の統計で二十二万もの宗教団体が登録されている(中略)。多数の神々や仏・菩薩が存在し、それらがともに信仰の対象とされている。また、時と処によって適宜使い分けられている」(Kindle版 No.47、61)

 いずれも日本人からすると自然なあり方ですが、冷静に考えてみると、これはかなり薄気味悪い状況ではあります。総人口の二倍を越える信者がいて、ありとあらゆる宗教と宗派が共存し、でも人口の七割が自分は「無宗教」だと自認しており、様々な信仰を適宜「使い分け」ているという。

 こんな国民性は、いったいどういう歴史から生み出されてきたのでしょうか。

 つかみはばっちり。先が気になってどんどん読みふけってしまいます。そもそも「神道」なるものは本当に古代から続く宗教なのか。それは今日いうところの「神道」と同じものか。明治政府が押し進めた「国家神道」なるものは、「本物」の神道を濫用した「偽物」なのか。そして、今日の私たちが、宗教に対してかくも「異常」なスタンスを示すのはなぜか。

 古代、中世、近世、近代、そして戦後。日本の宗教史を追いながら、「神道」がどのようにして成立し、どう発展してきたのかを分かりやすく説明してゆきます。そして、一般に流布している思い込みをばっさり。

 「今日、「神道は自然発生的に生まれた日本固有の民族的宗教」とする理解が、一種の社会的通念とされている(中略)。しかし、こうした理解は、神社の場合と同じく、事実の問題として明らかに誤っている」(Kindle版 No.628)

 「日本の宗教の特異性は日本の歴史そのものの特異なありかたと表裏一体の関係にある」(Kindle版 No.116)

 「「神道」の用語が中国から導入された古代にあっては、いまだその内容が明確なかたちで定まらず(中略)、中世への移行にともなって大きく変化するとともに、日本独自の意味をもってくる。日本の「神道」は中世にこそ成立したのである」(Kindle版 No.2431)

 「あらためて日本史上に展開した「神道」をそれ自体に即して見てみると、中世・近世・近代のいずれの時代にあっても、常に性格の異なる二系列の「神道」が存在し機能していたのを確認することができる」(Kindle版 No.2735)

 「いずれの時代においてもその中心的な位置を占めたのが、従来から理解されてきた「(民族的)宗教としての神道」とは異質な民衆統治のための政治支配思想(宗教的政治イデオロギー)というべきもので、「国家神道」もまたその系列に属している」(Kindle版 No.2738)

 古代には、私たちが思うような意味での「神道」は存在しなかった。この用語は中世・近世・近代を通じて常に二重の意味で使われ、そのどちらの系統も時代を通じて変化してきた。「神道」をめぐる混乱の多くは、この二つの系統をごっちゃにしているせいである。日本人が戦争責任についてうまく総括できないのも、つまるところ「国家神道」を歴史的文脈で正しく捉えることが出来ていないせいだ・・・。

 思わず膝を打ってしまいます。そういうことか、どうりで何だかよく分からなかったわけだよ。

 時系列に沿って、まず一般的な宗教史の解説、その中で「神道」の位置づけがどう変遷していったのかを示し、さらに重要ポイントは何度も繰り返し説明するという具合で、解説は非常に丁寧。高校で日本史の勉強をさぼった読者でも、ちゃんとついてゆけます(証言)。

 ラストは、柳田國男や梅原猛を徹底的に批判しつつ、冒頭に挙げた日本人の宗教スタンスの「異常さ」をきっちり解明。最後までエキサイティングです。

 というわけで、「神道」をめぐるもやもやを、宗教史の観点からすっきり整理してくれる気持ちのいい一冊です。知っていそうで実はあまりよく知らない、日本の宗教史を手早く理解したい方に。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0