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『SFマガジン2013年3月号 2012年度英米SF受賞作特集』 [読書(SF)]

 SFマガジン2013年3月号は、毎年恒例の英米SF受賞作特集ということで、主要なSF賞を受賞した英米作家の短篇を掲載してくれました。

 『選択』(ポール・J・マコーリイ)。海面上昇により海洋面積が広がった近未来、手作りヨットに乗り込んで異星人テクノロジー見物に出かけた二人の少年を待っていた運命とは。

 「ドラゴンの一部が、ルーカスが植えた種から育ったのだ。ほかのなにかになったのだ」

 つまるところ「墜落した円盤から謎の金属片を持ち帰ったら、あとから黒服の男たちがやってきた」という話なんですが、読後感はちょっとバチガルピ風。前半の明るい少年冒険物語と、後半の重く暗い展開との対比が鮮やかです。

 『紙の動物園』(ケン・リュウ)。中国の貧しい農村から「買われて」きた母親と、そのことを恥じて母を疎んじる息子。命ある折り紙に込められた母の想いは、彼に届くのだろうか。

 「ぼくらは鶴がぴんと張った紙の翼をはためかせ、はるか西へ、太平洋に向かって、中国に向かって、母さんの一族の墓に向かって旅立つのを眺めた」

 中国には古くから折り紙の風習があります。このへん日本と混同しているようですが、英米のSF読者にそんなことが分かるはずもないので、細かいことは気にしないように。中国出身の母が作る折り紙は特別で、それらは命を持って動くのでした・・・。母と息子の葛藤と和解をえがいた泣かせるファンタジー。

 『ベティ・ノックスとディクショナリ・ジョーンズ、過ぎ去りしティーンエイジに立ち返っての奇譚』(ジョン・G・ヘムリイ、というかジャック・キャンベル)。世界を救うべく若い時代の自分に精神転移した二人。だが、一介の高校生に歴史を変えることなど可能なのだろうか。

 「歴史が進んでいく圧力の強さに対して、わたしたちが手にしてる梃子は小さすぎるのよ。ほんのちょっと流れを変えるだけでさえ、とても長い時間がかかるの」

 主人公となる男女は老人なのですが、15歳のホルモンたぎるぴちぴち肉体に転移した途端、いきなり始まるラブコメ世界。しかも女子は眼鏡っ娘、男子はいつもロールプレイングゲームのルールブックを持ち歩いているという、まああれだ、ひたむきにオールドSFファンのウケを狙った作品。

 「SFこそが世界を変えるんだ!」と本気で信じていたあの15歳の夏を懐かしむ愛すべきSFファンたちの熱い支持を集め、アナログ誌読者賞に輝いた作品。

 『霧に橋を架けた男<前篇>』(キジ・ジョンスン)。広大な帝国を二分する霧の大河。一人の建築技師が、この危険極まりない「霧」を横断する橋の建造に取りかかったが・・・。

 「どんなものでも安全よ。そいつにあなたが殺されるまでは」

 腐食性で、底がどうなっているか誰にも分からない霧の大河。霧の中を泳ぐ魚、霧に浮かぶ渡し船、そして深霧に潜む巨大な怪物。土木建築SFですが、何といっても印象的なのは、この霧の設定です。今号には前篇が掲載されており、来月号の後篇が楽しみです。

[掲載作品]

『選択』(ポール・J・マコーリイ)
『紙の動物園』(ケン・リュウ)
『ベティ・ノックスとディクショナリ・ジョーンズ、過ぎ去りしティーンエイジに立ち返っての奇譚』(ジョン・G・ヘムリイ(ジャック・キャンベル)
『霧に橋を架けた男<前篇>』(キジ・ジョンスン)


タグ:SFマガジン
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