SSブログ

『輝夜姫 KAGUYAHIME』(イリ・キリアン) [ダンス]

 世界的なコレオグラファであるイリ・キリアンが振り付け、ネザーランド・ダンス・シアターのメンバーが踊った舞台映像です。1994年の収録で、石井眞木さんが自作『輝夜姫』全曲を指揮しており、その意味でも貴重な映像です。

 タイトルから分かる通り『竹取物語』を元にした、全二幕のバレエ作品です。音楽、舞台演出、振付、すべてが高いレベルでかみあって驚くべき効果を上げており、繰り返し鑑賞しても飽きません。

 まず音楽が素晴らしい。和太鼓、ティンパニ、様々なドラムを駆使したパーカッションが刻んでくる強烈なリズム、これは全身が痺れる。それと対比させるように、笙、ひちりき、横笛などにより奏でられる幽玄な雅楽パートは宇宙的な広がりを感じさせて、気が遠く。

 キリアンが創り出した舞台装置は、シンプルながらぞっとするような深淵を感じさせます。闇の中に、スポットライトを当てられた巨大な太鼓の面が浮かび上がり、これが「月」を象徴します。天井からつり下げられた多数のワイヤが光を反射してきらめき、神秘的な空間を構成してゆきます。

 上空には様々なライトが並び、これが左右に移動する様は、まるでUFOの編隊飛行。舞台奥にあり闇に沈む数台の自動車(ほのかに輝く)も、何だかSF的なイメージをかき立てます。というか、もしかしたら、欧州の観客にとっては、自動車は「日本」を感じさせる彩りなのかも知れません。

 第一幕は、「輝夜姫の降臨」から始まって、「求婚者」、「宴」、「諍い」と進み、第二幕は「戦」から始まって、「帝」、「軍勢」と進んで、最後は「輝夜姫の昇天」で終わるという構成。マイムなど説明的な場面はなくすべてがダンスで表現されますが、お馴染みの物語なので問題はありません。

 ダンスはもう素晴らしいの一言。次から次へと繰り出されてくる斬新な動き。輝夜姫のソロ(特に月への帰還シーケンス)は、「あ、これ確かに人間じゃない、異星生命体だな」と納得させられる異界感がみなぎっています。激しいパーカッションのリズムに乗って繰り広げられるバトルは激烈にカッコよく、腹の底から興奮が突き上げてくるし。

 何しろ使い回しや繰り返しがほとんどなく、よくこれだけ斬新な動きのアイデアが尽きないものだと感心させられます。しかも、個々の動きにいちいち説得力を感じるのです。偉大なコレオグラファー数あるなかでも、やはりキリアンは別格ではないでしょうか。

 というわけで、市販映像に恵まれているとはいえないイリ・キリアン作品に興味がある方は必見です。石井眞木さんのファンにもお勧めします。

[キャスト]

振付: イリ・キリアン

出演:ネザーランド・ダンス・シアター
  輝夜姫(Kaguyahime): Fiona Lummis
  帝(Mikado): Paul Lightfoot
  求婚者(Suitoers): Martin Muller、Ken Ossola、Johan Inger、Patrick Delcroix、Glenn Edgerton

作曲・指揮:石井眞木


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:演劇

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0