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2012年を振り返る(6) [教養・ノンフィクション] [年頭回顧]

2012年を振り返る(6) [教養・ノンフィクション]

 2012年に読んだノンフィクションのうち、印象に残ったものについてまとめてみます。なお、あくまで「2012年に私が読んだ」という意味であって、出版時期とは必ずしも関係ありません。

 まずは東日本大震災と原発事故に関する本として、あの渾身のドキュメンタリー番組『ネットワークでつくる放射能汚染地図』の制作過程を追った『ホットスポット ネットワークでつくる放射能汚染地図』(NHK ETV特集取材班)を挙げたいと思います。

 原子炉建屋で爆発と火災が起きていたとき、南下しつつあるプルーム(放射性雲)とすれ違うように福島へ向かってひた走り、原発から2Km(20Kmじゃなくて)地点まで突入したNHK取材班。彼らの驚くべき決意と行動の背景には何があったのか。 今、改めて読み直したい好著です。

 NHK取材班が原発事故現場に駆けつけたのと同時期、地震と津波の被害が最も大きかった石巻地区で繰り広げられていた医療従事者たちの戦いをえがいた『東日本大震災 石巻災害医療の全記録  「最大被災地」を医療崩壊から救った医師の7カ月』(石井正)と合わせて読むことで、信念を持って仕事をなし遂げることの大切さを学ぶことが出来ました。

 『怖い俳句』(倉阪鬼一郎)は、古典から現代までタイトル通り「怖い」俳句を集めて解説。その想像力を刺激してくる説明困難な怖さが素晴らしい。怖いといえば、『戦場の都市伝説』(石井光太)も相当に怖い一冊。大量虐殺などの非道が行われた地域で流布するおぞましい都市伝説の数々。現実の方がむしろ救いがない。

 『有害コミック撲滅! アメリカを変えた50年代「悪書」狩り』(デヴィッド・ハジュー)は、丁寧な取材により50年代の米国におけるコミック弾圧の実態を明らかにした労作。漫画表現規制問題に関心がある方は一読しておいた方がいいでしょう。

 『サイコパスを探せ!』(ジョン・ロンソン)は、良心や他者への共感が欠如した、いわゆるサイコパスに取材してまわり、政治家、企業経営者、高級官僚、軍上層部など、社会を動かしている人々の多くがサイコパスだという説の信憑性を探る一冊。取材を進めるうちに著者自身が自分の正気に自信が持てなくなり、精神の迷宮に踏み込んでゆくのが印象的。

 同じく精神の死角にうっかり踏み込んでしまい、帰れないままどっかに行ってしまった人々について精神科医が語る『精神のけもの道 つい、おかしなことをやってしまう人たちの話』(著:春日武彦、漫画:吉野朔実)も興味深いものがありました。

 哲学まわりでは、『100の思考実験 あなたはどこまで考えられるか』(ジュリアン・バジーニ)が哲学の基本問題を分かりやすく紹介してくれて印象に残りました。ただし、個人的には、「何を信じて生きればいいのか分からない」といった、より切実な問いかけに答えようとする『哲学の練習問題』(西研)にさらに強い感銘を受けました。

 もっと世俗的な悩みについては、『生きる悪知恵 正しくないけど役に立つ60のヒント』(西原理恵子)や『人生相談 比呂美の万事OK』(伊藤比呂美)が多大なインパクトと共に教えてくれます。

 翻訳まわりでは、子供たちへの授業という形で、翻訳という営みの深層を探求してゆく『翻訳教室』(鴻巣友季子)が素晴らしい。

 一方、日本の漫画やラノベに登場する様々な文化依存ネタを台湾の翻訳家がどのような工夫により中国語に翻訳したのかを研究した『オタク的翻訳論 日本漫画の中国語訳に見る翻訳の面白さ 巻九「ケロロ軍曹」』(明木茂夫)と『オタク的翻訳論 日本漫画の中国語訳に見る翻訳の面白さ 巻十「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」』(明木茂夫)が面白い。このシリーズ、今後も楽しみ。

 なお、台湾といえば、JR時刻表に慣れた日本人のための「日式」台湾鉄道時刻表である『台湾時刻表 2012.1』(日本鉄道研究団体連合会)には感心しました。

 社会派では、人気ブロガー「ちきりん」さんが世界のあちこちを旅して考えたことを書いた『社会派ちきりんの 世界を歩いて考えよう!』(ちきりん)、ネットにより自分にとって心地よい情報しか目に入らないようになってゆく社会に警鐘を鳴らす『閉じこもるインターネット グーグル・パーソナライズ・民主主義』(イーライ・パリサー)、SNSの実態を暴き、真面目に仕事をすることの大切さを見直す『ソーシャルもうええねん』(村上福之)、などが印象的でした。

 『心にトゲ刺す200の花束 究極のペシミズム箴言集』(エリック・マーカス)は人生の真実についての思わずニヤリとするような皮肉な言葉を集めた一冊。『象は世界最大の昆虫である ガレッティ先生失言録』(池内紀:編集、翻訳)は実在した名物教師の抱腹絶倒のいい間違い語録。『ふしぎな110番 警察本部の通信指令課に「本当に」寄せられた110番通報」(橘哲雄)は、意味不明だったり可笑しかったりする警察への通報を集めたもの。まとめて読むと、人間は愚かで意味不明なことばかりやってるけど、そこがいい、という人生観に癒されます。

 『氷上の舞 煌めくアイスダンサーたち』(田村明子)は、フィギュアスケートの華、アイスダンスの歴史と名選手たちについて、初心者にも分かるよう基礎的なことを教えてくれる一冊。

 『ゴロツキはいつも食卓を襲う フード理論とステレオタイプフード50』(著:福田里香、絵:オノ・ナツメ)、『ランキングの罠』(田村秀)、『ネトゲ廃人』(芦崎治)、『痕跡本のすすめ』(古沢和宏)は、それぞれ、漫画などでキャラクターを「立てる」ために食事がどのように使われているか、新聞や雑誌などでよく見かけるライキングがどのようにして作られているか、オンラインゲームにどっぷりハマって生活破綻した人々、古書への書き込み、といったものの研究本で、どれも興味深く読めました。

 猫まわりでは、『のせ猫 かご猫シロと3匹の仲間たち』(SHIRONEKO)とその続編『のせ猫 かご猫ファミリーと新入りみみちゃん』(SHIRONEKO)、『choo choo 日和2 色つきの猫でいて。』(イラスト:Jetoy、文:こやま淳子)がもう大好き。

 オカルト関連ですが、まずは『エリア51 世界でもっとも有名な秘密基地の真実』(アニー・ジェイコブセン)が素晴らしい。UFOや異星人の話はほとんど出てきません。現実のエリア51で冷戦当時に何が行われていたのかを明らかにした本です。偽史や歴史修正主義に関する『捏造される歴史』(ロナルド・H・フリッツェ)と共に、読みごたえたっぷり。

 『世界の心霊写真 カメラがとらえた幽霊たち、その歴史と真偽』(メルヴィン・ウィリン、木原浩勝)は古典的な心霊写真、ネットで話題となった有名な心霊写真などを集めた心霊写真集。『増補版 未確認動物UMA大全』(並木伸一郎)はネッシーから妖精まで何でも収録したUMA百科事典。基本をおさえておきたい方に。

 『オカルト 現れるモノ、隠れるモノ、見たいモノ』(森達也)、『超心理学 封印された超常現象の科学』(石川幹人)、『量子の宇宙でからみあう心たち 超能力研究最前線』(ディーン・ラディン、石川幹人訳)は、いずれもオカルト現象の「とてつもないことがあっさり起きるのに、記録しようとすると決して起きない、探求すればするほど逃げてゆく、それなのに統計的にはその存在が示されてしまう」というたちの悪い本質に踏み込んでゆく本。あるとは言えないが、ないと断言することも出来ない、その狭間に興味がある方に。

 もっと気楽に楽しめるオカルト本としては、ユリゲラー・ノストラダムス・ツチノコの時代に少年少女だった方々のための『ぼくらの昭和オカルト大百科 70年代オカルトブーム再考』(初見健一)や、通俗オカルトの基礎知識をまとめた『オカルト「超」入門 』(原田実)がお気に入り。

 最後にオカルト検証本ですが、2012年はマヤ暦の予言でフォトンベルトがアセンションでどうのこうのということで、予言まわりの検証本がたて続けに出ました。『検証 予言はどこまで当たるのか』(ASIOS、菊池聡、山津寿丸)、『謎解き超常現象III』(ASIOS)、『トンデモ本の新世界 世界滅亡編』(と学会)などが楽しめました。この次の世界滅亡が待ち遠しい限りです。


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