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『WWW/パンダ・チャント』(河野聡子) [読書(小説・詩)]

  「おくびょうとは用心深く獲物を狙っているうちにいつも他の動物に先を越されるヒョウの仲間である」
  (『パンダ・チャント』より)

 弾けるリズム、真顔で書かれた馬鹿解説。心浮き立つ魅惑の詩集。単行本(私家版)出版は、2012年11月です。

 『パンダ・チャント』と『Wild-Water-Words』という、それぞれ複数の詩から構成された二作品が収録されています。で、これがもう、個人的な好み直撃なんですよ聞いて下さい。

  「四度の和音、うなりは五回、三度の和音、うなりはパンダ・パンダ・パンダ・パンダ・パンダ・パンダ・パンダ・パンダ・パンダリンリン、リンリン、リンリン、リンリン、ただようノード、世界の結節点をつかまえよ、ひらけ、スクロールせよ、まきあげよスクロール・ダンス・スクロール・マン・ダンス、ダンス、ダンス、ダンス、チャームたちの声が呼んでいる、魅せられて、捕らわれるな、ノードを捕まえよ」
  (『パンダ・チャント』より)

  「リンリンは旭山動物園の増大した態度を内心苦々しく思っていたが、動物園界の長老という立場で、自分の所属動物園のみを思いやることは、たとえ中国生まれのパンダといえども日本の美徳に反するために許されないことだった。しかし「動物園のたましいはパンダである」という信念を彼ほど強烈に維持していた存在は他にいなかったのである」
  (『パンダ・チャント』より)

 リズム弾けまくる韻文、いったいぜんたい真顔で何を云っておるのか解説文が、交互に並べられています。全体としてスリリングなスパイ小説になっているらしく、韻文パートが本編、散文パートはその注釈あるいは解説という体裁です。

 スパイ小説としての「あらすじ」は、作中で次のように説明されています。

  「前号のあらすじ・その3:ところでパンダのリンリンの死、その直後から始まったパンダ・チャームの異変を調べるべく、誰も知らない野瀬さんは真夜中の自動販売機に派遣されている。彼は「指令チャーム」を発見しなければならなかった。それはパンダのリンリンが死に瀕して上野動物園を救うためにしかけた起死回生の策、あらゆるチャームをパンダ・チャームへと変換する特殊ツールであった」
  (『パンダ・チャント』より)

 主人公は野瀬さんという人、おそらく。作中で野瀬さんは次のように紹介されています。

  「だれも知らないひと野瀬さんは/携帯電話が話しかけてくる男で/携帯電話の/声が聞こえる男だった/実際に携帯が鳴るのはシフトを代わってくれというバイト先の要請だけで、バイト先は厚生労働省のヤング・エンプロイー・スキル・プログラムに参加していた/ヤングエンプロイースキルプログラムは略してYESプログラムと言われていた/あなたもYESプログラムに入りますか?/イエス!/イエス!/ノー!/それで野瀬さんは携帯に出ない」
  (『パンダ・チャント』より)

 まあ、それはそれとして。

 読んでいるだけでそのリズムが心地よく、おそらく朗読すれば、さらには詠唱すれば、これはもうやみつきになりそうです。変なことを真顔で語りかけてくるユーモアあふれる注釈パートもいい味を出していて、勢いとリズムで飛び跳ねる本編と組み合わさると、これはもう言葉のドリフト走行。どこへ向かうとも知れないまま、ぐーるぐる旋回して横滑りしてはっと気づいたら自由落下。

 『Wild-Water-Words』は、いくつかの短い詩が集まって出来たわけのわからない素敵なものです。

  「まつりは「船頭多くして船山にのぼる」を先になしとげた側が勝つ」
  (『庭』より)

  「ユキとはテレパシーでつながっているから、半径二メートル以内ならつながるから」
  (『庭』より)

  「泥棒は体育の間に弁当を食べ終わるとていねいに包みなおして教室を去っていて、被害にあった女子はともだちと弁当箱を並べ、いざ蓋をひらく瞬間まで気づかないこともままあるのでした。しかも最初の被害女子はひそかに早弁したことを忘れていたにちがいないとの誤解を受け、弁当ともだちの失笑を買いました」
  (『ひとりでにくるくるまわっている』より)

  「昨日は彼とサンタたちの労働条件について話した/いまどきのサンタは配達のたびに煙突スタンプをもらおうとするので面倒くさい、とか/毎年秋の終わりに北の国で徴用されるサンタたちはノルマ制だ、とか/あらゆる人間のこどもを幸せにするためのサンタ三原則を背負わされている、とか/たとえその家が公園や道端や戦場にあろうともみえない煙突を通り抜けてサンタは行く、とか/サンタのいるビルディングには/ある決まった順番と組み合わせでエレベーターを動かせば任意の煙突に出る装置があるんだ、とか。/「だったら私はサンタになれます」と彼はいった」
  (『野生の水の言葉』より)

 こうして気に入った部分を書き写しているだけで、頭がほわほわしてきて、いい気分に。ある種の薬物のような効果。これに匹敵するのは、斉藤倫さんの詩、福永信さんの小説、くらいなものではないでしょうか。うーん、好きだ。


タグ:河野聡子
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