『UFOはもう来ない』(山本弘) [読書(SF)]
「おそらく地球人は、「知的」だと思いこんでいるだけで、実際には知的生物ではないのだろう。もしかしたら、それこそが異星人がコンタクトしてこない理由なのかもしれない」(単行本p.418)
UFOカルト教団にアブダクトされた触手系タコ型異星人を救出せよ! ファーストコンタクトした少年たち、美人UFO研究家、UFO番組ディレクターらが組んで仕掛けたコン・ゲームの行方は。一部読者感涙必至の円盤ハードSF。単行本(PHP研究所)出版は、2012年12月です。
ひそかに地球を監視していたUFOが不時着し、現場にやってきた少年たちが取り残された異星人とファーストコンタクトする。異星人は少年たちにかくまわれたものの、その存在を不都合と見なすUFOカルト教団によって拉致されてしまった。こうして、少年たち、美人UFO研究家、UFO番組ディレクターが、囚われた異星人を救出するためにUFOカルト教団に闘いを挑むことに。
『E.T.』をはじめとして何度も語られたストーリーですが、この話をパロディでもファンタジーでもなく大真面目なハードSFとして書くという、意表をついた作品。UFOネタ小説としても、SFとしても、ジュブナイルとしても、非常によく出来ています。何より、痛快無比の面白さ。
丁寧に書き込まれたUFO墜落シーケンス(個人的には、反物質が大気中に放出されたときの描写にシビれた)、よく練られた異星人の設定(巻末に「解説」として設定資料が付いています)、細かい段取りとサスペンスで読ませる異星人争奪戦、そして興奮と感動のクライマックス。読み所は満載です。
異星人がタコ型だったり、UFOが円盤じゃなくてブラックトライアングルだったり、地球を監視する目的が主にUFO番組やB級SF映画のコレクションだったり、しかも必要以上に録画の画質にこだわるあたりが一部地球人の共感を呼んだり、異星人よりむしろ希少と思われる「若い美人UFO研究家」が活躍したり、それも大阪弁でぽんぽん威勢よくしゃべるしUMAハンター馬子が若かったらこんな感じかも知れないと思わせたり、あとUFOカルト教祖である詐欺師のキャラクターにも説得力があって悪役として魅力的だったり、読者の心をくすぐる仕掛けもたっぷり。
最初に目次を見たとき、もしやこの各章タイトルのネタが全て分かるような読者しか相手にしない作品なのではと不安になりましたが、決してそんなことはありません。UFO文化についてあまり知らない読者でも、素直に楽しめるエンターティメント作品です。もちろんUFOネタは頻出しますが、あくまで分かる人だけニヤリとして下さい、という扱いです。
少年たちの冒険を描いたジュブナイル小説としても読めますが、私のようなSF好き中年男性の心をとらえるのは、本物のUFO、本物の異星人についに出会った、というときの、大人たちの大人げない反応でしょう。
「あせりを覚える反面、高揚もしていた。これこそ自分がやりたかった番組だ。演出はない。誇張はない。ヤラセもない。人形やCGでこまかしたりもしない。正真正銘の真実を伝える番組だ」(単行本p.500)
「子供のように眼を輝かせ、画面を見つめて、「やった、やった、やった・・・」と小声でつぶやいていた」(単行本p.509、510)
「ただ・・・ただ・・・嬉しかったんや・・・ほんまやねん・・・嬉しいねん・・・こんな・・・こんなことがほんまにあるやなんて・・・」(単行本p.264)
UFO界のあまりの愚劣さに辟易しながらも、でも本物のUFOや宇宙人にひょっこり出会うことをいまだ夢見てるいい歳した大人は、随所で「とうとう夢がかなった」喜びにじんとくるはず。
「こんな不景気で暗い世の中で、名もないエキストラの一人として、ぱっとせん人生を歩んでいかなあかんねん。心のどこかで、この世の中が根本的にひっくり返ることを望んでるんとちゃうかな。何もかもチャラになったら、自分の人生も今より良うなるかも・・・そう期待してる人は多いんとちゃうやろか」(単行本p.408)
そして、タイトルの意味が明らかにされ、感動的なラストがやってきます。何よりも、クラークの名作SFのタイトルが決めゼリフとなるのが嬉しい。UFOとSFの距離が近かったあの頃、SF が確かに持っていた、あの素朴だけど力強い感動を今になってまた味わうことが出来るとは。
「人間が解決すべき問題やのに、神様とか異星人とかをあてにしてたらあかんわ。『空に向かって祈ってたら、いつか誰かが助けてくれる』なんて思てたら、結局、何も解決せえへん」(単行本p.555)
というわけで、UFOをテーマとした真面目なSFは意外に少ないとお嘆きの方、着陸したUFOのハッチが開いてタコ型宇宙人が触手で操縦するウォーカーマシンが出てくる小説を読みたい方、コクタクティがUFO内のトイレについて決して語らないのをつねづね不満に思っている方(作中でちゃんと描写されます)、そして少年と元少年と美人のお姉さんが世界の命運をかけた冒険に挑む話とかやっぱ好っきゃねんっという方。ぜひお読みください。
UFOカルト教団にアブダクトされた触手系タコ型異星人を救出せよ! ファーストコンタクトした少年たち、美人UFO研究家、UFO番組ディレクターらが組んで仕掛けたコン・ゲームの行方は。一部読者感涙必至の円盤ハードSF。単行本(PHP研究所)出版は、2012年12月です。
ひそかに地球を監視していたUFOが不時着し、現場にやってきた少年たちが取り残された異星人とファーストコンタクトする。異星人は少年たちにかくまわれたものの、その存在を不都合と見なすUFOカルト教団によって拉致されてしまった。こうして、少年たち、美人UFO研究家、UFO番組ディレクターが、囚われた異星人を救出するためにUFOカルト教団に闘いを挑むことに。
『E.T.』をはじめとして何度も語られたストーリーですが、この話をパロディでもファンタジーでもなく大真面目なハードSFとして書くという、意表をついた作品。UFOネタ小説としても、SFとしても、ジュブナイルとしても、非常によく出来ています。何より、痛快無比の面白さ。
丁寧に書き込まれたUFO墜落シーケンス(個人的には、反物質が大気中に放出されたときの描写にシビれた)、よく練られた異星人の設定(巻末に「解説」として設定資料が付いています)、細かい段取りとサスペンスで読ませる異星人争奪戦、そして興奮と感動のクライマックス。読み所は満載です。
異星人がタコ型だったり、UFOが円盤じゃなくてブラックトライアングルだったり、地球を監視する目的が主にUFO番組やB級SF映画のコレクションだったり、しかも必要以上に録画の画質にこだわるあたりが一部地球人の共感を呼んだり、異星人よりむしろ希少と思われる「若い美人UFO研究家」が活躍したり、それも大阪弁でぽんぽん威勢よくしゃべるしUMAハンター馬子が若かったらこんな感じかも知れないと思わせたり、あとUFOカルト教祖である詐欺師のキャラクターにも説得力があって悪役として魅力的だったり、読者の心をくすぐる仕掛けもたっぷり。
最初に目次を見たとき、もしやこの各章タイトルのネタが全て分かるような読者しか相手にしない作品なのではと不安になりましたが、決してそんなことはありません。UFO文化についてあまり知らない読者でも、素直に楽しめるエンターティメント作品です。もちろんUFOネタは頻出しますが、あくまで分かる人だけニヤリとして下さい、という扱いです。
少年たちの冒険を描いたジュブナイル小説としても読めますが、私のようなSF好き中年男性の心をとらえるのは、本物のUFO、本物の異星人についに出会った、というときの、大人たちの大人げない反応でしょう。
「あせりを覚える反面、高揚もしていた。これこそ自分がやりたかった番組だ。演出はない。誇張はない。ヤラセもない。人形やCGでこまかしたりもしない。正真正銘の真実を伝える番組だ」(単行本p.500)
「子供のように眼を輝かせ、画面を見つめて、「やった、やった、やった・・・」と小声でつぶやいていた」(単行本p.509、510)
「ただ・・・ただ・・・嬉しかったんや・・・ほんまやねん・・・嬉しいねん・・・こんな・・・こんなことがほんまにあるやなんて・・・」(単行本p.264)
UFO界のあまりの愚劣さに辟易しながらも、でも本物のUFOや宇宙人にひょっこり出会うことをいまだ夢見てるいい歳した大人は、随所で「とうとう夢がかなった」喜びにじんとくるはず。
「こんな不景気で暗い世の中で、名もないエキストラの一人として、ぱっとせん人生を歩んでいかなあかんねん。心のどこかで、この世の中が根本的にひっくり返ることを望んでるんとちゃうかな。何もかもチャラになったら、自分の人生も今より良うなるかも・・・そう期待してる人は多いんとちゃうやろか」(単行本p.408)
そして、タイトルの意味が明らかにされ、感動的なラストがやってきます。何よりも、クラークの名作SFのタイトルが決めゼリフとなるのが嬉しい。UFOとSFの距離が近かったあの頃、SF が確かに持っていた、あの素朴だけど力強い感動を今になってまた味わうことが出来るとは。
「人間が解決すべき問題やのに、神様とか異星人とかをあてにしてたらあかんわ。『空に向かって祈ってたら、いつか誰かが助けてくれる』なんて思てたら、結局、何も解決せえへん」(単行本p.555)
というわけで、UFOをテーマとした真面目なSFは意外に少ないとお嘆きの方、着陸したUFOのハッチが開いてタコ型宇宙人が触手で操縦するウォーカーマシンが出てくる小説を読みたい方、コクタクティがUFO内のトイレについて決して語らないのをつねづね不満に思っている方(作中でちゃんと描写されます)、そして少年と元少年と美人のお姉さんが世界の命運をかけた冒険に挑む話とかやっぱ好っきゃねんっという方。ぜひお読みください。
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