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『タマゾン川  多摩川でいのちを考える』(山崎充哲) [読書(教養)]

 「たまたまだれかが飼いきれなくて放した。このアロワナ一匹だけであれば、わたしもそう考えたかもしれません。いや、そうであってほしかった。でも、じっさいは違いました。アリゲーターガーパイク、ノーザンパイク、グッピー、セルフィンプレコ、オスカー、ピラニア・・・。ほかにもいるはずのない魚が多摩川でつぎつぎと発見されたのです」(単行本p.17)

 多摩川の生態系を破壊しつつある外来種の脅威について、小学生高学年でも理解できるように易しく解説した一冊。単行本(旬報社)出版は、2012年07月です。

 「ペットとして外国から輸入される魚は、なんと年間約5000万匹にものぼります。(中略)もういらないって、もう飼えないって、捨てる人たちが大勢いる。その結果がタマゾン川なのです」(単行本p.51)

 南米産の魚類が多摩川に捨てられて繁殖している、これでは多摩川ならぬ「タマゾン川」だ、というのが本書のタイトルの由来です。ちょっとユーモラスで軽い感じの言葉ですが、実態はかなり深刻だということが本書を読めばよく分かります。

 「日本で進化をとげてきた生き物でなければ結局、環境と共存できないのです。いちばんわかりやすいのがブラックバスのいる池です。(中略)ブラックバスは在来種を完全に食べつくします。魚だけでなく、ヤゴなどの水性昆虫もつかまえ、ほかにエサがにもなくなると、こんどはブラックバス同士での共食いです。そうなると、そこは最終的にブラックバスさえいない池になる。多様な生き物のくらしが失われた環境は、死そのものです」(単行本p.49)

 「2009年秋、多摩川でアユの大量死が発生しました。お腹がふくれ、眼球が飛び出し、体には赤いはん点・・・こうした症状の数万匹ものアユの死がいが多摩川にあふれました。(中略)その結果は水産関係者に大きな衝撃をあたえるものでした。エドワジエラ・イクタルリ感染症。舌をかみそうな名前ですが、これは北アメリカ原産のアメリカナマズ(チャネルキャットフィッシュ)だけがかかる病気です」(単行本p.77)

 「外来種は見えます。だからまだ対策の立てようもあるのです。けれど細菌やウイルスは目に見えませんから、対策の立てようがない。川を消毒するなんてできっこありませんから。人間が思いもよらない影響をほかの生き物にあたえてしまう。それが外来種問題のおそろしさなのです」(単行本p.80)

 こうして多摩川の外来種問題を中心に、生態系と人間との関係を子供にも分かるように易しく解説してゆきます。著者の多摩川への思い入れも余すところなく書かれており、実に感動的。

 高度経済成長期に多摩川がどれほど汚染された「死の川」だったか。それが現在は「日本最後の清流といわれる美しい四万十川とほとんど変わらない」ほど浄化され、「毎年、春になると100万匹以上ものアユが俎上してくる」ようになったという、いわゆる「多摩川の奇跡」はどのようにして実現したのか。

 捨てられる外来種を減らすための試み「おさかなポスト」、多摩川温暖化の問題、軽く見られがちな国内間外来種問題、など多摩川を中心に様々な話題が登場します。個人的には、首都圏計画停電により危うく多摩川生態系が完全に破壊される瀬戸際だった、という話がショッキングでした。多摩川の豊かな自然が、電力の安定供給によって(あるいは「原発によって」といってもよいのかも知れません)支えられているという皮肉。自然と文明の共存について考えさせられる話です。

 「年間に多摩川を訪れる人を数えると2000万人にのぼるそうです。すごいな、と思います。でもヘンだよな、とも思います。それだけの人が毎日多摩川を見ているにもかかわらず、そこにアロワナやピラニアが泳いでいたことに、だれも気がつかなかったわけですからね」(単行本p.24)

 「とくに都会を流れる川であれば、網を入れればかならず外来魚がとれます。東京の墨田川、大阪の淀川、名古屋の庄内川、日本中どこにでもいます。ただみんなが川に関心を持たないから、ばれていないだけ」(単行本p.55、56)

 私は多摩川沿いの街に暮らし、多摩川に沿って走る電車で通勤しているのですが、実は多摩川についてほとんど何も知らなかった、外来種問題についても自分とは縁遠い話題だと思っていた、そのことに本書を読んではじめて気がつきました。

 というわけで、多摩川に関心のある方はもちろん、外来種問題を初めとする生態系危機、生物多様性問題について、身近なところから学びたい方、そして学校の自由研究の題材を探している方など、多くの方に一読をお勧めします。


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