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『とてつもない宇宙  宇宙で最も大きい・熱い・重い天体とは何か?』(ブライアン・ゲンスラー) [読書(サイエンス)]

 「宇宙を描くために使う数が、人間の頭ではまったく理解を超えているとしても、その測定を支える見事な美しさ、多様さ、すっきりと整った様は、やはり驚き、たたえるに値する」(単行本p.13、14)

 宇宙空間よりも低温の星間ガス、他のすべての天体を合わせたよりも明るい光、差し渡し14億光年の構造体、マッハ4700で疾走する中性子星、3万光年離れてなお地球に影響を与える磁力源。天文学者が発見した文字通り「天文学的」な記録をまとめた驚異と興奮のサイエンス本。単行本(河出書房新社)出版は、2012年11月です。

 これまでに発見された天体のうち最も大きなものは何か。温度、明るさ、古さ、大きさ、速さ、重さ、音量、電磁気、重力、密度といった様々な指標について、宇宙でこれまで発見された最大と最小の記録を紹介してくれます。

 宇宙空間の「温度」、超新星爆発の「音量」、ブラックホールの「密度」など、そもそも指標を宇宙に対してどのように適用すればいいのか、という興味深い問題について説明した上で、それをどのようにして測定するのか、という方法を簡単に解説してくれます。おかげで、単なる天文学ギネズブックや理科年表の抜粋といったものにはなっていません。

 次々と紹介される記録ときたら、まぎれもない驚異の連続です。

 宇宙空間それ自体よりも低温のガス。宇宙全体の他のすべての天体を合わせた明るさを軽く上回る光。長さ14億光年の構造体。音速の4700倍という猛スピードで宇宙空間を移動する中性子星。星の残骸を時速1億キロメートルで吹き飛ばす超新星爆発。光速の99.9999999999999999999996パーセントの速度で地球の大気に降り注ぐ宇宙線(陽子)。

 「この陽子と光線が、100万光年の距離を競走したとしても、100万年後も大接戦で、光が陽子をかわす差はわずか4センチほどということになる」(単行本p.102)。

 一方、数値はそれほどではないように思えるのに、その意味するところが想像を絶するという話題も豊富。例えば「第7章 極度の音」では、超新星爆発の音量は330デシベル以上、ブラックホールから吹き出すジェットが奏でる音階は「変ロ」音、ビッグバンから10年後における宇宙の基調音は「嬰ヘ」音で音量は90デシベル、といった魅惑的な話がぎっしり詰まっています。

 私たちの先入観を裏切る数値にもインパクトがあります。例えば、これまで発見された最大のブラックホール(太陽質量の400億倍)の密度は、空気よりもはるかに薄い。「ナポオレンとジェゼフィーヌ」と呼ばれる銀河ペアは互いの周囲を回っているが、引き合う重力は何と地表重力の900兆分の1しかない。

 ページをめくるたびにこういった極端な数に驚かされるのですが、何といっても印象に残るのは、これらのデータを正確に測定してのける天文学者たちの努力と技術です。

 「何千光年も離れたところにあるのに、パルサーが軌道を一周するのに36時間48分10.032524秒かかることがわかる(1マイクロ秒ほどの精度で)。さらに、このパルサーがたどる公転軌道は、宇宙で知られている中ではいちばん完璧に近い円を描く。パルサー軌道の直径は114万キロあるが、(中略)1000万分の1メートルほどという、人間の髪の毛の太さよりも小さいぶれを生じるだけだ。こんなに遠いこんなに小さな天体について、このような精密な測定が行えるというのは、十分に驚くに足る」(単行本p.65)

 「小惑星2008 TS26は、直径がおよそ50センチから100センチほどで、大きなビーチボール程度だったのだ。これは、それほど小さなものを見つけて追跡できる現代の観測機器や計算精度の質を物語っている」(単行本p.83)

 というわけで、ただ天体を発見するだけでなく、深い理解に基づいてそれを正確に測定する、という天文学の営みに目を向けてくれる一冊です。「最大のブラックホール発見」とか「最古の銀河を発見」といった新聞記事を目にするとき、ただ「宇宙の話はでっかいなあ、ロマンだなあ」などと思うだけでなく、それをどうやって測定したのかを考えてみる、その大切さを知ることが出来ることでしょう。


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