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『Sadeh21 -サデ21』(オハッド・ナハリン振付、バットシェバ舞踏団) [ダンス]

 2012年11月24日(土)は、夫婦で彩の国さいたま芸術劇場に行って、オハッド・ナハリン率いるイスラエルのバットシェバ舞踏団の公演を鑑賞しました。

 そっけない「壁」が置いてあるだけのシンプルな舞台、その「壁」を前に17名のダンサーたちが踊ります。最初は一人ずつ登場して踊っては去ってゆく。やがて二名で組んで踊り、ときに数名で踊り、どんどん人数が増えてゆき、群舞へと展開。

 驚異的な身体能力を活かしたダンサーたちの動きは格別で、特に奇矯な動きとはいえないのに、何だか「これまで見たことがない新しいダンス」のように感じられ、思わず拳を握りしめてしまいます。その新鮮さ。特に身体バランスの強靱さには驚かされます。

 ときどき銃声が大音量で重く響き、死と暴力の気配を残しますが、やがて華やかなシーン、楽しそうなシーン、ユーモラスなシーンが増えてゆき、青春時代のような浮かれた気分が舞台を覆います。巧みな照明効果により「壁」も様々に色合いを変え、雰囲気を作り出してゆきます。

 一人一人のダンサーが、それぞれ他の人にはない自分だけの個性的な面白い動きをするのが素晴らしく、個の人生を丁寧に描いている、という印象を受けます。これだけやって動きのアイデアが尽きないというのが凄い。

 しかしラストに向けて再び舞台は緊張感を増してゆき、個の人生を押しつぶす力が支配するようになります。女性が倒れ痙攣する横で男性たちが軍隊調のダンスを繰り返すなど、あからさま。分断されたダンサーたちは、最初のように一人ずつ順番に踊るのですが、このとき果てしなく続く女性の悲鳴や嘆願が背景音として流れ続けるという、えぐい演出。

 最後は「壁」の上からダンサーたちが次々と「身投げ」して死んでゆく。黒田育世さんの初期作品にも似たような演出がありましたが、ここで「壁」にダンサーたちひとりひとりの名前を映し出すという「エンドロール」を加えることで、感情移入をぐっと強めるオハッド・ナハリンの演出もまた効果的。胸がじんとなります。

 やがて無人となった舞台、「壁」には"THE END"という文字が映されたまま。ただ音楽が空しく流れ続け、カーテンコールも挨拶も何もない。悲劇は終わらないし、現実のイスラエルが抱えている政治問題も終わりません。いつ拍手をやめて帰ればいいのか困惑するとき、観客はそのことを思い起こさずにはいられないのです。


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