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『アンドロイドの夢の羊』(ジョン・スコルジー) [読書(SF)]

 「善人はただそれだけ。でも、悪人になれば結果がでるのよ」(文庫版p.420)

 「アンドロイドの夢」と名付けられた羊を一週間以内に見つけろ、さもなければ地球はおしまいだ。捜索を開始した主人公を狙うのは、冷酷な暗殺者、腕利きのハッカー、謎の宗教団体、そしてエイリアン種族の策略。迫り来る世界の終りを前に、ハードボイルド・ワンダーランドで羊をめぐる冒険が始まる。文庫版(早川書房)出版は、2012年10月です。

 暗殺者につけ狙われたり、権力闘争に巻き込まれたり、いきなり銃撃戦に放り込まれたり、何度も死にそうな目にあいながらもしぶとく生き延びるタフガイが、世界を救うために「羊」を追いかける。だが、その背後には恐るべき陰謀が隠されていたのだった。そんな小説を読みたいとは思いませんか。

 片手に拳銃(実弾8発装填済、弾薬補充不可)を持ち、もう片手に美女(ときおり辛辣なコメントをするだけで、戦闘能力なし)を抱えた主人公が、強大なエイリアン艦隊に包囲される。やむを得ず敵戦闘部隊にたった一人で戦いを挑む主人公。そして、艦隊どころか、敵の惑星まるごと制圧してしまう。そんな小説を読みたいとは思いませんか。

 ぜひ読みたいとおっしゃる方に、お勧めしたいのが本書です。(他にもお勧めしておいたほうがいいと思われることは色々ありますが、他人の人生にケチつけるのも何ですし、やめておきます)

 「この教会はできるだけ人目を引かないことを好んでいて、メンバーたちの選り好みの激しさと、そもそも三流SF作家の必死の策略から生まれた教会に加わりたがるのは特殊な人びとだけだという事実により、規模が拡大することもなかった」(文庫版p.154、155)

 痛快スペースオペラ『老人と宇宙(そら)』シリーズで知られる作者による独立した長編です。タイトルからはP.K.ディックの代表作が連想されますが、別にパロディというわけでもなく、内容的にはほぼ無関係。「老人と宇宙(そら)」シリーズと同じく多種多様な知的生命ひしめく宇宙を舞台に、あるエイリアン種族と一触即発の危機に陥った地球を救うため、主人公が大活躍する話です。

 「きみたちがコミュニケーターに応答するためにセックスを中断するという事実は、大銀河連邦の隅々までひろがるスキャンダルなのだ」(文庫版p.265)

 前半はハードボイルド探偵、後半はスペースオペラ、いずれも典型的なノリで展開する娯楽小説になっています。あちこちに見られるユーモアや軽口の応酬など、スコルジーらしさは健在。というか、同じテイストの小説しか書けないのではないかと思われ。

 というわけで、読者の期待を裏切らないスコルジーらしい作品。巻末の「訳者あとがき」によれば、『老人の宇宙(そら)』シリーズの新作(連作短編集)が来年出版される予定だそうで、こちらも翻訳されるのが楽しみです。


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