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『機龍警察 暗黒市場』(月村了衛) [読書(SF)]

 武器密売ブラックマーケットを一網打尽にせよ。極めて危険な潜入捜査に挑むユーリ・オズノフ警部を待ち構えていたのは、自らの凄絶な過去、そして大いなる闇だった・・・。SF、ミステリ、警察小説、冒険活劇、どのジャンルの読者も満足させる傑作シリーズ、長編第三弾。単行本(早川書房)出版は、2012年9月です。

 凶悪化の一途をたどる機甲兵装(軍用パワードスーツ)犯罪に対抗するために特設された、刑事部・公安部などいずれの部局にも属さない専従捜査員と突入要員を擁する警視庁特捜部SIPD(ポリス・ドラグーン)。通称『機龍警察』。

 龍機兵(ドラグーン)と呼ばれる三体の次世代機を駆使するSIPDは、元テロリストやプロの傭兵など警察組織と馴染まないメンバーをも積極的に雇用し、もはや軍事作戦やテロと区別のなくなった凶悪犯罪に立ち向かう。だがそれゆえに既存の警察組織とは極端に折り合いが悪く、むしろ目の敵とされていた。

 龍機兵あるいはそれに匹敵する高性能な機甲兵装が武器密売ブラックマーケットに流れようとしているとの情報を得た特捜部は、それを阻止すべく元ロシア警察のユーリ・オズノフ警部を潜入捜査員として送り込む。ターゲットとなるロシアン・マフィアのボスは、ユーリのかつての友人だった。

 「俺は警官の息子だ。そして最も痩せた犬達の一員だ」(単行本p.392)

 心に深い屈託を抱えたユーリ、その過去にいったい何があったのか。裏切りと陥穽のどん底で絶体絶命の危機に陥った彼を、その魂を救うのは誰か。

 「何もかもが急速にぼやけて遠のいていく。駄目だ。前に出ろ。前に出てつかめ。希望を、誇りを、失ったすべてを」(単行本p.292)

 というわけで、予想通り、長編第三作の「主役」はユーリ・オズノフ警部。前作『自爆条項』が英国の冒険小説風(それに忍者小説のスパイス混入)だとすれば、今作『暗黒市場』は香港ノワール映画風。それも定番の潜入捜査官もの。当然ながら「男の友情」と「裏切り」があれこれする話です。

 もともとこのシリーズは基本的に警察小説ですが、それにしても本作は徹底しています。現在パート(日本警察の潜入捜査)の途中に過去パート(ロシア警察の囮捜査)がはさまるという構成で、裏切りと陥穽と汚辱に満ちた過去に決着をつけるため命をかける警官の熱い物語が展開します。

 最後の100ページ強はもうね、見せ場の連続。地下格闘戦、海上チェイス、屋内銃撃戦、雪山対決。舞台を次々と移しながら危機また危機、ひたすら定番と定石が続きますが、このシリーズを読むときそんなことは気になりません。背後で進行する政治的駆け引きも話のテンポを乱すことなく緊迫感を盛り上げており、常連キャラにそれぞれ出番を割り振りながら、話の焦点がぼやけないようきっちりまとめてくる。このあたりのストーリーテリングの巧みさには舌を巻きます。

 ついにドラグーン「バーゲスト」に搭乗したユーリが"DRAG-ON"の叫びとともに特殊戦闘モードにチェンジし、過去の因縁に決着をつけるべく最後の対決に挑むクライマックス。このシーンにたどり着くことは最初から分かりきっているのに、それまでに積み重ねてきた物語の力で、身体に震えが走りました。

 なお、『自爆条項』とはほとんど関連してないので、前作を読んでない方が手にしても大丈夫。ただ、第一作『機龍警察』とのつながりはけっこう深いので、こちらは事前に読んでおいた方がいいでしょう。

 というわけで、これで機龍警察の傭兵三名が順番に「主役」をつとめるファーストシーズンが終わったという感じ。次作ではさらに他の登場人物が主役になるのか、それとも主要キャラクター紹介は終わったのでいよいよ「敵」との総力戦がスタートするのか。いずれにせよ先が楽しみで楽しみで仕方ありません。


タグ:月村了衛
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