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『猫ノ眼時計』(津原泰水) [読書(ファンタジー・ミステリ・他)]

 ミステリなのか、怪談なのか、ダークファンタジーなのか、実はお笑いではないのか。無頼漢を装ったお人好し猿渡とひょうひょうとした伯爵のコンビが活躍する奇妙な冒険もついにクライマックスへ。『蘆屋家の崩壊』、『ピカルディの薔薇』がそれぞれ文庫化されると共に出版された、シリーズ「幽明志怪」完結編。単行本(筑摩書房)出版は、2012年07月です。

 単行本の帯に「さらば猿渡!」と大書きされているので、ええーっ、猿渡、もしかして死んじゃうの? 心配になって急いで読みました。凍え、燃やされ、海に落ち、トラックに轢かれ、幻覚キノコにやられ、山羊の臓物喰わされ、カメラに写らなくなる。さては、すでに奴は死・・・。みたいな目に間断なくあい続ける猿渡いつもの通りで一安心。

 というわけで、猿渡が語り手をつとめる人気シリーズの最長作品『城と山羊』を含む作品集です。

 まず冒頭の『日高川』では美女アイダベルが登場。伯爵を情熱的に追いかけます。

 何しろ激情に駆られると念動発火能力(パイロキネシス)を発揮する(自称)というおっかない女なので、このままでは梵鐘の中に隠れた伯爵を焼き殺しかねない、と懸念した猿渡は必死で彼女を追いますが、まあ大方の予想通り、彼だけがひどい目に。

 親友である伊予田の顛末が語られる『玉響』をはさんで、本書の中心となる中篇『城と山羊』と『続・城と山羊』に続きます。

 友人の美少女が悪魔崇拝の邪教集団にさらわれて生贄にされそうなので助けてほしい、というアイダベルの依頼を真に受けた(受けるなよ)伯爵が、僕が危ない目にあうのは嫌ですから、という理由で猿渡に声をかけ、三人で山羊の島と呼ばれる孤島に向かう、という話です。

 果たして島は本当に邪教集団に支配されているのか。猿渡が目撃した巨大な城は実在するのか。再会した秦遊離子と兄は、この島で何をたくらんでいるのか。

 孤島で彼らを襲う危機また危機。というか、もちろん伯爵やアイダベルは無事で、ひどい目にあうのはもっぱら猿渡の役目になるわけですが、まず冒険物語として楽しく、ホラー、ミステリ、幻想譚としても面白いと思います。現と幻が溶け合ってゆく後半の展開が特に素晴らしい。

 そして最終話、『猫ノ眼時計』。猿渡の若いころの話で、覗いた者は自分の余命を見ることになるという猫の眼をめぐる奇譚です。そんな迷信、と相手にしなかった猿渡ですが、ふとしたことからその眼を見てしまい・・・。短篇小説としての完成度が高く、また他のレギュラーキャラクターは一切登場しないので、独立した作品として文章の冴えを堪能できます。

 最後に「年表」が収録されており、シリーズに属する全作品の時系列順が明らかにされているのもポイント高し。

 というわけで、『11 eleven』や『バレエ・メカニック』のような極北的な幻想小説も凄いと思うのですが、こういうちょっと力を抜いたユーモラスな奇譚も好きです。シリーズ既刊、『蘆屋家の崩壊』と『ピカルディの薔薇』が文庫化されたので、本書と合わせてお読みください。

[収録作品]

『日高川』
『玉響』
『城と山羊』
『続・白と山羊』
『猫ノ眼時計』


タグ:津原泰水
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