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『SFマガジン2012年8月号  日本作家特集』(宮内悠介、仁木稔) [読書(SF)]

 SFマガジン2012年8月号は、2月号に引き続き日本作家特集ということで、新鋭作家の読切短篇を2篇掲載してくれました。

 『ロワーサイドの幽霊たち』(宮内悠介)は、SFマガジン2012年02月号に掲載された『ヨハネスブルグの天使たち』に続く、落ちものSF。アフリカを舞台に世界経済の底辺を書いたかと思えば、マンハッタンを舞台に今度は頂点を扱うという豪腕。

 テロ実行犯と被害者、二人の移民の視点から、911リバイバルという常軌を逸したプロジェクトの進行がじっくりと書かれます。どうやって、そしてなぜ、そんなことをするのか。その理由が明らかになるラストシーンは感動的。破天荒なアイデアをもとに、米国とは、ニューヨークとは何なのか、という問いに向き合う傑作です。さて、次はどこで落下するのか、今から楽しみ。

 『はじまりと終わりの世界樹』(仁木稔)は、SFマガジン2012年06月号に掲載された『ミーチャ・ベリャーエフの子狐たち』と同じ背景世界に属する作品。登場人物も一部共通しているようです。前作でも中心的テーマとなっていた、遺伝子工学により作り出され、下層労働者(そして被差別人種)となっている亜人たちのルーツ、そしてこの世界の「原罪」が明らかになります。

 何らかの遺伝子操作により生まれた一人の少女。彼女の極めて特異な精神構造と生理機能により、周囲の人々は心理的、病理学的に破滅へと導かれてゆく。無知と反知性主義、宗教的原理主義、陰謀論、人種差別、暴力、虐待、米国の深い闇が彼女を侵食するとともに彼女によって増幅されてゆく様が、弟の視点から語られます。

 ジョン・ブラックバーンの諸作品を連想させる、事実と陰謀論が簡単に裏返ってしまう悪夢のような展開の果てに、いったい何が産み出されるのか。最後まで衝撃が続く作品です。

 前作同様、陰謀論と虐待シーンはたっぷり盛り込まれています。特盛りつゆだく。荒唐無稽な陰謀論の迷路に迷い込んでゆく感触に、現実に米国が行ってきた非人道的な戦争犯罪の数々が混入され、その嫌ーな感じは実に大したもの。個人的には好きな作風ではありませんが、その迫力には参りました。

 というわけで、今このとき、二人の新鋭が揃って「米国」をテーマに書いたというのは、まことに興味深いものがあります。一極支配の超大国が凋落してゆくとき、かつてなく狭くなっているこの世界はいったいどうなるのか。誰もが抱いているこの疑問に、想像力を武器にして切り込んでゆく。それは、現代SFが書くべき重要なテーマの一つなのかも知れません。

[掲載作品]

『ロワーサイドの幽霊たち』(宮内悠介)
『はじまりと終わりの世界樹』(仁木稔)


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