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『見せびらかすイルカ、おいしそうなアリ  動物たちの生殖行為と奇妙な生態についての69話』(パット・センソン) [読書(サイエンス)]

 二つある生殖器のひとつを自分でちぎりとって雌を追いかける雄クモ、攻撃するとき皮膚を切り裂いて骨が飛び出す蛙など、生物の驚くべき生態を扱ったカナダのラジオ番組を書籍化。単行本(飛鳥新社)出版は、2011年09月です。

 ゲストとして呼ばれた研究者が生物の奇妙な生態について語るという、カナダ放送協会CBCのラジオ番組「クワークス&クォークス」。この番組で取り上げられた話題のうち反響が大きかったものを収録したポピュラーサイエンス本です。

 内容をいくつか簡単に紹介しましょう。

 ヨツモンマメゾウムシのペニスは硬いトゲに覆われており、オスは交尾のときこれでメスの生殖器を切り裂く。こうすることで他の雄との交尾が出来ないようにするのである。さらに、彼らは体重の10パーセントに相当する大量の精液をメスに注ぎ込む。メスはこの大量精液から回収した水分により生き延びる。

 ヒメグモのオスは巨大で重たいペニスを二つ持っており、メスを発見するとそのうち片方を自分でちぎりとって捨て、身を軽くして猛ダッシュをかける。

 ミーアキャットのメスは、他のメスが生んだ子供をこっそり殺すことで自分の子を群れの中で出世させようと画策する。

 アメリカザリガニは、オス同士の闘争で決着がついた後に、「手打ち式」として、オス同士、しかも人間そっくりの正常位で、交尾行動(疑似交尾)を行う。

 コクヌストモドキという甲虫は、オス同士でも交尾を行う。どうやら他のオスに精子をつけることで、その相手が次にメスと交尾するとき、ちゃっかり自分の精子も受精させてしまうチャンスを狙っているらしい。そして、この戦略は功を奏している。

 アカゲザルのオスは、自分の食事というコストを支払ってでも「メスの尻」と「優位オスの顔」の写真を見たがる。前者は「プレイボーイ誌」、後者は「フォーブズ誌」に相当すると研究者は考えている。

 アマゾン・モーリーという魚は、メスだけで単性生殖する。つまりクローンにより繁殖している。それでも、彼女たちは近隣種オスと交尾しなければ排卵できない。これはオスから見れば決して受精させられない精子無駄打ちなのに、近隣種のオスたちはなぜか喜んで交尾に応じる。

 アミメヤドクガエルは、他のカエルが産卵した場所を探して、そこに産卵する。先に孵化したオタマジャクシは、後から孵化した仲間を食べて栄養とすることで生き延びる。

 アカメアマガエルのオタマジャクシは、まだ孵化に必要なほど成熟してなくても、ヘビが接近してくるときの振動パターンを検知すると、卵の中から「緊急脱出」を試みる。

 ツチハンミョウの幼虫たちは、孵化した後でみんなで植物によじのぼり、ハチと同じサイズの固まりになって全員でハチの性フェロモンに似た化学物質を放出する。そして交尾しようと寄ってきたハチの背中にわらわらと飛び乗って、遠隔地まで運んでもらう。

 ・・・。

 こんな話題が69個も収録されており、どれもこれも驚異的。生き延びて遺伝子を広めるためにいきものが編み出した奇抜な戦略の数々には驚かされます。

 単に「こんなヘンな習性をもった生物がいるんですよ」で終わらせず、なぜそのような生態が進化してきたのか、そこをきちんと説明してくれるところも素晴らしい。

 例えば、カウアイ島に棲息するコオロギのうち、95パーセントのオスが、決して鳴かない「平たい翅族」になっている。これは、鳴くことによるメス獲得のメリットと、鳴くことにより寄生バエを呼び寄せてしまうデメリットの、微妙な均衡による結果である。それだけでも驚くべきことだが、真の驚異は、この突然変異が群れ全体に広がるのに20世代もかからなかった、という点にある。

 不条理としか思えないような奇怪な習性が、実は進化という観点からすると理に適ったものだと理解する瞬間、身が震えるような感動を覚えます。

 さらに、その習性が進化的に有利になる理由を定量的に検証するための、研究者たちの奮闘努力にもまた興味深いものが。

 野外で何時間も腹這いになって昆虫の交尾を観察し、研究室に帰ってさまざまな実験を繰り返し、少しずつ、少しずつ、仮説を検証してゆく彼らの姿には、何かこう、胸を踊らせるものがあります。

 猿がわざと尿を手になすりつけるのはなぜか、コブラはどういうときに毒液を放射するのか、フクロウが他の動物の糞を巣穴に集めてくる理由は。それを調べるため、猿の尿をあちこちにつけて回り、手をコブラのような形にして、しゅっ、しゅっ、とか本物を威嚇して毒液を発射させては素早く透明アクリル板の盾で防いだり、木に登ってフクロウの巣穴からせっせと糞を回収して他の巣に移動させたり。フィールドワークに取り組む研究者の人生はさぞや楽しいんだろうな。

 というわけで、いきもの雑学集としても滅法面白く、進化論の参考書としても充実しており、生物学者の仕事を学ぶことも出来る、どなたにもお勧めの一冊。こんなラジオ番組が40年近く続いているというカナダのラジオ局にも憧れます。


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