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『SFマガジン2012年6月号  Jコレクション創刊10周年記念特集』 [読書(SF)]

 SFマガジン2012年6月号はJコレクション創刊10周年記念特集ということで、仁木稔さんの短篇と西島大介さんのコミックを掲載してくれました。

 『ミーチャ・ベリャーエフの子狐たち』(仁木稔)は、現実とは異なる歴史を辿った架空の米国を舞台に、ヘイトクライム(憎悪犯罪)を引き起こす社会病理に迫ったシリアスな作品。

 この「米国」においては、遺伝子工学により作り出された亜人間が下層労働者として働いています。彼らは「妖精」と呼ばれ、多くの人はその存在を受け入れているのですが、一部の白人は「妖精」を忌み嫌い、その嫌悪感が宗教や“人種”差別と結びついて、彼らに対する過激な暴力に走る連中も出てきます。

 「妖精」を「移民」に差し替えても違和感なさそう。

 排他主義、不寛容、反知性主義、宗教的原理主義、異文化恐怖、そして陰謀論。外国や異教徒や異民族が米国を妬み、神に選ばれた正しい人間(白人)を堕落させ国を乗っ取る陰謀を進めている、今すぐ具体的な行動により奴らに強烈なメッセージを叩きつけてやらなければならない・・・。

 ヘイトクライムを支える心理と社会的構造が、いささか戯画的な形で表現されます。まあ現実の米国そのものに「いささか戯画的」なものが感じられるので、そういう意味ではため息が出るほどリアル。

 とにかく登場人物もその考えも言動も、何もかもが不愉快な話です。先に進むにつれて残虐シーンも増えてゆき、読者もいささかうんざりしてきたところで、あっと驚く真相が明らかにされるという仕掛け。まあ、実は典型的な陰謀論なんですけど、使い方が巧妙です。

 『All those moments will be lost in time』(西島大介)は、東京から広島に引っ越した感慨を描いたコミック作品。高台の住宅地、津波からも放射能からも遠いこの地、でも「ずっと昔ここには原爆が落ちた。爆心地から4Km」。

 夜の散歩に出かけた著者は、放置された老人ホームや、土台は作られたのに家がない土地、誰もいない夜の公園、など静かな廃墟のような場所を歩きながら「僕は3.11後の世界で被爆者としてどう生きるべきか学ぼうとしていた。過去から」。

 といった感じで、3.11後の「気分」を描こうとする作品です。しかし、Jコレクション創刊10周年記念特集号で、米国の「ポスト911」と日本の「ポスト311」を扱った作品が並ぶというのは、いかにも時代を感じさせますね。

[掲載作品]

『ミーチャ・ベリャーエフの子狐たち』(仁木稔)
『All those moments will be lost in time』(西島大介)


タグ:SFマガジン
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