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『おいで、一緒に行こう  福島原発20キロ圏内のペットレスキュー』(森絵都) [読書(随筆)]

 福島原発周辺に取り残された沢山のペットたち。飼い主を失い死を待つばかりの犬猫のために、警察の取り締まりをかいくぐって避難対象地域に侵入し、救出活動を続ける人々。何が彼らを駆り立てているのか。ペットレスキューに同行した作者が原発20キロ圏内で見たものとは。単行本(文藝春秋)出版は、2012年04月です。

 「この取材が正しいのか正しくないのか、私にはいまだもってよくわからない。見たくて、知りたくて、書きたくて、伝えたかった。そこに正義の意識はなかった。同時に良心の呵責もなかった」

 日に日に状況が悪化してゆくなかで、一匹でも多くの命を救うべく原発20キロ圏内に侵入する。避難所生活を送る飼い主からの依頼を受け、取り残されたペットを保護するペットレスキュー活動に同行取材した渾身のルポです。報道風ではなく、あくまで著者自身が体験したことを一人称で語るという形式。

 「飼い猫は、絶対、手放しちゃダメだ。何があっても・・・・・・手放したら、もう二度と会えない」(単行本p.48)

 「それまではテレビを観ながら泣いてばかりいたんです。このままだったら病気になる、よほど自分で行ったほうがマシだ、と」(単行本p.73)

 「皮しか残ってない犬や猫がたくさんいて、勘弁してよ、と思って。(中略)見たくもないような量の見たくもないものを見ちゃって、泣くことでしか精神のバランスを保てなくて」(単行本p.64)

 「自分がやってることが正解だとは思ってないし、もう何回もやめたくなりましたよ。なんのためにこんなことやってるんだろう、って。泣いて、吐いて、泣いて、吐いて」(単行本p.64)

 福島におけるペットレスキュー活動に取り組む人々の姿が生々しく書かれています。現場の様子、里親探し、キャットシェルター建設、飼い主との再会、そして別離。様々なシーンを丹念に積み重ね、今そこで起きていることを伝えようとする気迫に満ちて。

 著者自身による写真も多数収録されており、現場の様子を窺い知ることが出来ます。過度にむごたらしいものはありません。文章にも凄惨なことは書いてないので、そういうのが苦手な方もたぶん大丈夫。

 ただ、個人的には、道端に転がっている仔猫の遺体(写真)とか、座り込んで地面を舐め続ける猫とか、痩せすぎて首輪がたすきになった猫とか、読んでいていちいち苦しかった。

 封鎖ブロック除去、警察パトロールの回避、職務質問されたときの嘘など、公表すると今後の活動に支障をきたしかねないヤバイことも正直に書かれています。しかも関係者の実名入り。きれいごとにはしない、あまのままを伝える。著者と関係者の覚悟のほどが伝わってきます。

 「まだ圏内にいる仲間が警察に捕まって、車に乗せていた猫二匹、保護した場所へ戻してこいって言われたらしいんです。しかも、リリースしたことを証明するために、空になった捕獲器をもう一度、見せにこいって・・・・・・」(単行本p.167)

 「レスキュー自体はどうってことないんです。あちこち動きまわって、それで疲れるとかは全然ない。けど、今、警察に会ったらどんな嘘つこうとか、なんて言って切りぬけようかとか、もう一日中ずっと嘘ばっかり考えてて、それがすごく疲れる。もうほんとにね、嘘だらけですわ、私たち」(単行本p.168)

 心ならずもペットを見捨てざるを得なかった飼い主の苦しみ。比喩でなく血を流して犬猫を保護する人々。救出された犬猫を一時保護するために奔走する人々。捕獲できない動物たちに餌をやるためひたすら現場に通い続ける人々。読み進めるにつれてその迫力に圧倒されます。

 「時として荒っぽいこともする彼女たちを、私は諸手を挙げて賛美するつもりはない。彼女たちの健康や生活を考えると無責任な応援もためらわれる。けれど(中略)彼女たちの向こうみずな行動力に、そのありあまる母性と他者への想像力に、闇の中に一筋のびる命綱のような心強さを感じずにはいれらないのも事実だ」(単行本p.84)

 「よかったことをどれだけ数えあげても、根底にある悲しみが深すぎて、どうしても気持ちが陰へ落ちていく。よくない。こんなことがあっていいわけないんだ」(単行本p.144)

 あそこで見捨てられた犬猫のことが気になっている方は是非お読み下さい。また、あの原発事故そのものではなく、それによって明らかになったこの国の問題が何であるのか考えたい方にも、一読をお勧めします。国や社会の本当の姿を知りたければ、最も「弱みのある者」への扱いを見るのが一番だと、つくづくそう思います。


タグ:森絵都
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