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『SFマガジン2012年5月号  イアン・マクドナルド特集』(バチガルピ) [読書(SF)]

 SFマガジン2012年5月号はイアン・マクドナルド特集ということで、中篇1本および短編1本と共に、パオロ・バチガルピ『錬金術師』の後篇も掲載されました。

 『ソロモン・ガースキーの創世記』(イアン・マクドナルド)。ナノテクノロジーによる不死を実現した技術者がたどる数奇な人生を描く中篇。ハイテクスリラーからスペースオペラを経て神話的遠未来へ、章が変わる毎にさらりと数千万年、あっさり数億年が過ぎ、宇宙の終焉に向けて爆発的に加速してゆく物語。あるいは七日間で世界を再創世しちゃう話。

 いわゆる「スティープルドン的」作品の典型ですが、最後には「小松左京的」叙情へと着地。破天荒なスケールの割にきっちりまとめてきた観が強く、むしろそこがちょっと物足りないか、という印象を受けます。

 『掘る』(イアン・マクドナルド)。火星では超巨大縦穴の掘削が進められていた。充分な深さに達すれば、底に大気が溜まって環境スーツなしに居住可能な空間が出来るのだ。火星の掘削都市で育った一人の少女を通じて、局地的テラフォーミングの風景を描いた短篇。

 近未来の火星開拓もので、その落ち着いた雰囲気を楽しめる作品ですが、問題はラスト一行。インパクトは凄いけど、これはマジなのかギャグなのか判断に苦しみます。

 『錬金術師〈後篇〉』(パオロ・バチガルピ)。誰かが魔法を使うたびに増える毒イバラ。魔法濫用により異常繁殖した毒イバラのため滅びつつある世界で、一人の錬金術師が対処法を発明する。だが、その技術は恐怖政治への道を開いてしまうのだった。

 純然たるハイファンタジー世界を舞台に、魔法と奇跡とロマンスの物語を書いても、結局は環境問題がテーマになってしまう。しかも後篇では、支配と抑圧の道具としての環境問題、というさらに陰鬱なテーマを扱ったシニカルな話へと展開。暗い話なのに読み始めるとぐいぐい引っ張られる。さすがバチガルピ。

[掲載作品]

『ソロモン・ガースキーの創世記」(イアン・マクドナルド)
『掘る』(イアン・マクドナルド)
『錬金術師〈後篇〉』(パオロ・バチガルピ)


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